第49話 合流


「エンケリンちゃん? 美味しい?」


 まぁ、聞くまでもない様な気もするけどね。


 まだ口一杯でもぐもくしながらも、うんうんと頷いて、むふー、と笑顔。可愛すぎか!


「なんだ今日は一段と美味うまそうに食ってんなエンケリン! 全く、作り手冥利に尽きるってもんたぜ! がははっ!」


 うん、ほんとにね。そう思ったのは私や屋台の親父だけじゃなかったみたいで、エンケリンちゃんの食べっぷりを見た回りの通行人達が、屋台に集まり始めていた。


 昼も過ぎたこの時間、来たときは落ち着いていた客足がにわかに増えた。


「おっと、この時間からもう一稼ぎしろってか? こりゃあ夜の分が足りなくなりそうだ!」


 続々と注文が入る。これは、このままここにいるのは邪魔になりそうだね。何処かに移動しようか……あ、でも待ち合わせがここか。


「嬢ちゃん、エンケリン、こっちの横で待つといい。後、これはオーパさんの分だ、この分だと作り置きは分は早々にけそうだからな!」


 屋台の親父が肉串を私に渡しながら、自分の屋台の横のスペースを指して言う。しかし、嬢ちゃん……そういや17歳になったんだっけ、慣れるしかないか。


「いや、流石に悪いよ」


「なに、こんな臨時収入をくれた礼だ。お代はいらん、と言いたい所だが、嬢ちゃんが納得しなさそうだからな、後でくれればいいさ」


 そう言うと屋台の親父は集まったお客さんの対応に戻った。むむ、これ以上食い下がるとかえって迷惑になるね。仕方ない、大人しく受け取って待つとしよう。


 屋台の脇に移動する私とエンケリンちゃん。エンケリンちゃんは相変わらず私の手からお肉を食べている。

 口一杯にして、もきゅもきゅ食べている。ふわわぁ~、いつまででも見ていられるね。


 しかし、本当に美味しそうに食べてるよね。そんなに美味しいのかな? 私も食べてみるか、あむっと!?

 歯が通る!? 流石にエンケリンちゃんの様に豪快に大口開けて……というのは乙女としてはばかられるので、多少上品に噛み付いた訳だけど……まさか噛み切れるとは!? うおおっ! しかも旨い! なんだ!? 私の貧弱な語彙と表現力では伝え切れないが、強いて言うならば、かなり上等な牛の赤身を食べている様だ。焼き鳥の様な焼き方をしているせいか、余計な脂が落ちているのかくどさはなく、なのに咀嚼そしゃくする度に旨味が出てくる。しかも固くないのだ!?


「なにこれっ!? 美味うますぎるんですけどっ!?」


 え? なに? この世界の食べ物って全部美味しいの?


 あぁ、もう無いや。……いや、ここにもう一本……いやいや、これはオーパ爺のだから……。


 ふとそこで視線を感じてそちらを見ると。エンケリンちゃんが最後の肉串を、じ~と、見ていた。どうやらエンケリンちゃんも自分の分を食べ切っていたみたいだね。


「いや、エンケリンちゃん? これはオーパ爺のだからね?」


 先程の自分を棚に上げ、エンケリンちゃんを諭す。


「構わんよ、いつも半分はエンケリンにやっとる」


 そこにオーパ爺の声が、


「あ、オーパ爺。そうなんだ……じゃあ、はい、エンケリンちゃん」


 エンケリンちゃんに肉串を差し出すと、はむっと齧り付く。そして、もきゅもきゅ食べる。やっぱ可愛すぎる。って、もう3つ目にかかろうとしてる!?


「エンケリンちゃん? 後はオーパ爺のだよ?」


 そう言うと私は肉串をエンケリンちゃんの届かない所に引き上げる。


 それを目で追うエンケリンちゃん。そして私の持つ肉串を、じっと、見詰めてる。

 ううう、何てことを私にさせるんだ……。


「はい、オーパ爺早く食べちゃって」


 エンケリンちゃんの視線にいたたまれない私は、肉串をさっさとオーパ爺に渡す。


「今日は一段と激しいのうエンケリン」


 そう言いつつ、エンケリンちゃんの熱烈な視線を気にすること無く、肉串を食べていくオーパ爺……流石だね。


 何事もなく食べ終えるオーパ爺。そして食べ終わった串は屋台脇の箱へ。そこら辺に、ぽいっ、とかしないからね?


「あ、御金は?」


 そうだ、すっかり支払いの事を忘れてた。


「お前さん達に声を掛ける前に払っておるよ」


 何てことない感じで、さらっと答えるオーパ爺。実にスマート。やるな。


「そうだったんだ。ありがとう、オーパ爺。後、ごめんね。先に食べちゃってて……」


 今日入ったばかりの従業員が、雇い主の付けにして先に食べてるとか、ないわ~。


「構わんよ、エンケリンのあの様子では仕方なかろう」


 そんな暴挙をした私にも、この対応。器が大きなオーパ爺。


「あはは、エンケリンちゃんって、いつもああなるの?」


 そうそう、これ。結構大人びたエンケリンちゃんの新たな一面だね。可愛いので良いんだけど。


「いや、今回は前回から時間が空いたせいじゃな。普段はここまではならんのう」


「なんかやばいものとか入ってないよね?」


 屋台の親父に聞こえないように、小声でオーパ爺に聞く私。


 私は入ってたとしてもなんともないけど、エンケリンちゃんに悪影響があるのは見逃せないからね。


「ほほ、入っとらんよ。エンケリンの好物と言うだけじゃ」


「ならいいんだけど……」


「ほれ、エンケリン。そろそろ行くぞい。リーベスを案内せんでよいのか?」


 いまだに屋台で焼かれている肉串を見詰めていたエンケリンちゃんに声を掛けるオーパ爺。


「! リーベスお姉ちゃん! こっちだよ!」


 漸くエンケリンちゃんが戻って来たよ。あれはあれで可愛いけど、元気いっぱいのエンケリンちゃんがやっぱり良いよね!

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