第48話 屋台

 そんなこんなでようやくエンケリンちゃんが一軒の屋台の前で歩みを止める。驀地まっしぐらだったねぇ。

 しかし、此処まで何とか通行人に被害なし、私頑張った。


 そして、そこはなんとも言えない良い匂いが漂い、何かが焼けるじゅうじゅうとした音がなんとも堪らない、そんな空間だった。


「エンケリンちゃん? ここなの?」


 こくこく、と一点を見詰めながら無言で頷くエンケリンちゃん。あはは、最早それしか眼中にないみたいだね。


「ん? 誰かと思ったらエンケリンじゃねえか! しばらく振りだな! ん~ん? オーパさんは一緒じゃねえのか?」


 そこで、凝視し続けるエンケリンちゃんに屋台の親父が気付いた様で、話しかけてきた。どうやら知り合いみたいだね。


 エンケリンちゃんはそれに対して、


 こくん。


 と、頷き一つで答えてそのまま凝視し続ける。


「わはは! それだけ夢中になってくれるとは嬉しいね! ……ところで、あんたはどちら様かな?」


 おっと、先程までにこやかだった屋台の親父が鋭い眼光で質問してきたよ? こりゃ絶対堅気かたぎじゃ無いでしょ。今はシノギ中なのかな?


「えっと、今日からオーパ商会に雇われる事になったリーベスです。宜しくお願いします」


 そう言って、ちょこんと頭を下げる。ん? こっちの挨拶って御辞儀おじぎってあるのかな? まっ、いいか。


「おいおい、くならもっとましな嘘を吐くんだな。目的はなんだ? その子に何かしようってんなら、無事にこの街から出られると思うなよ?」


 あれあれ? 全然信じられて無いんですけど? 私ってそんなに怪しいの?


 う~ん……何か証明するものあるかなぁ……あっ! そういえば登録証に書いてあるんじゃなかったっけ?


 無くさないようにちゃんとお道具箱に入れてたからね。えっと……取り出しは……よしっと。


「はい。これなら信じてくれるでしょ?」


 私はそう言ってお道具箱から取り出した自分の登録証を屋台の親父に見せる。勿論フルネームじゃ無い方だ。


「ん? ……まじか。いや! すまなかったな! 疑ったりして! 許してくれ! この通りだ。しかし、かたくなに人を雇わなかったオーパさんに認められるとは、あんた何もんだ?」


 私の登録証を確認して、素直に謝罪をして頭を下げる屋台の親父。うん。自分の非を認められるのは良いことだね。許してあげよう。


「オーパ爺ってそんなに頑なだったの?」


「ん? あぁ。エンケリンもまだまだ小さかったからな、誰か雇った方が良いんじゃないかってみんなで言ってたんだ。それでも今迄、誰も雇わずにいたのに……、そこにあんたの登場って訳だ。気になるってもんだろう?」


 成程ね、確かにそっちの立場だったら気になるか。さて、どう話したものか……。


「う~ん。なんと言うか、お互いに利害の一致をみたと言うか何と言うか、そんな感じで。後はエンケリンちゃんに気に入られたのも大きいかな?」


 我ながら何とも要領を得ない話になってしまった。


「ん? おお! そう言えばエンケリンが他人にこんなに懐いてるのは初めて見るんじゃないか?」


 う~ん、またこれか。嬉しい様な、ちょっと悲しいような、複雑なんだよね。でも、今が良いんだから良いのかな?


 こんな話をしながらもちゃんと肉串を焼き上げている屋台の親父。プロだね。うん。絶対堅気じゃ無いとか思ってすいません。


 そこでふと、エンケリンちゃんを見ると!? あららららら、口が半開きになって涎がたら~と垂れ落ちそうですよ。


「あのー、エンケリンちゃんにだけでも、先に一本貰えないかな?」


「ん? ははっ! エンケリン! 何て顔してんだ! 分かった分かった、エンケリンだけとは言わずあんたも食ってな! オーパさんはもうじき来るんだろ?」


 そう言って二本の肉串を差し出してくる屋台の親父。

 ってか、でかっ!? エンケリンちゃんの握り拳位の大きさの肉の塊が五個一串に刺さってる。遠目で良く見てなかったけど、こんなに大きかったのか……。


「いや、私はいぃ……いや、ありがとう。オーパ爺も、もう少しで来ると思うから」


 エンケリンちゃんにだけ、つけで食べさせる訳にはいかないよね? ちゃんと共犯になっとかないと。

 そう思い直し屋台の親父から肉串を受け取る私。


「ほら、エンケリンちゃん食べよう?」


 そう言って、私はエンケリンちゃんに肉串を渡そうと差し出す。いや、これエンケリンちゃん食べられるのか?


 あむ。


 ん?


 私が差し出した肉串に豪快にかぶり付くエンケリンちゃん。


 そして、先端の肉の塊を口一杯に頬張って、実に幸せそうにもぐもくしてる!?


 はわわわわ、なんですかこの可愛い生き物は!?

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