第46話 不審者

「えぇっ!? 私ですか!?」


 飛び上がる様に立上がり、指を指し続ける私を見て怯む不審者。


「心当たりは有るでしょう? それとも無いですか?」


「えっと……その……あう……」


 途端に目を彷徨さまよわせる不審者。うん、自覚はあったようだね。まだ救いがあるかな?


「自覚があるようで何よりです。なら、店を変えるという意味も分かってくれますよね?」


 私は優し気に、を心掛けつつ不審者に問う。


「えぇと……でも……まだ何もしてないし……」


 うじうじしながらそんな事をのたまふ不審者。


「何かしてからでは遅いでしょう? 何を言ってるんですか?」


 ここも努めて穏やかに語り掛ける私。


「ひぃ!?」


 何故か怯えた声を上げる不審者。何故に?


 そこで手を引かれる感覚を感じて、そちらを見ると――


「リーベスお姉ちゃん……」


 なんとっ!? エンケリンちゃんの悲しげな顔がっ!!!???


 しまったー!!! エンケリンちゃんの前でやることではなかった!! 仮にもこの不審者はエンケリンちゃんの知り合い! ザルツさんに続いてこっちもか!? って思ったら考え足りずに、ザルツさんにしたように対応してしまったっ!!!!


「あ、え、えっとね? エンケリンちゃん? その、違うの……」


 一気に血の気が引いて、そんな言い訳にもならない言葉を口走る私。


「…………」


 悲しげな顔で私をじっと見つめるエンケリンちゃん……。むぐぐ。こ、これは、何かいい感じの言い訳を考えねば!


 …………だ、駄目だ。いい案が出ない……。むむむ、致し方無し……。


「あー、今後は不審な行動は慎んで下さいね? 不審者じゃ無いとなればお店を変える必要は無いですからね」


 ニッ、と営業スマイルを決める私。


「ひぃ!?」


 怯える不審者。なっ! 失礼な!


「こほん。改めまして、私は今日からオーパ商会に雇われる事になったリーベスです。現在は主に護衛を担当しています。よろしくお願いします」


 そう言って私は片手を差し出す。


「へ? あ、えっと、はい。私はアポティーカです。この店の店主をしています。よろしくお願いします?」


 戸惑いながらもおずおずと差し出された手を、ガシッと掴んで笑顔でシェイクハンド。


「ひぃ!?」


 だから何故に怯えるかね? 私はどこぞの魔法薬頼みの人と違って、目付きは悪く無い筈……だよね?


「リーベスお姉ちゃん」


 そこでエンケリンちゃんが私を呼ぶ。


 違うの、ちゃんと私は取り繕ったのにこの人が……あっ! そうだっ!


「さっきのはね? この店が安全か確める為にやったんだよ? でも、大丈夫みたいだから、今は仲良くしようねっ、て握手してるんだよ?」


 これは我ながらなかなか良い言い訳なんじゃない?


「!? そうなんだ! ……でも、びっくりするからちゃんと言ってからしてほしいな?」


 私の言い訳に真っ直ぐに返して来るエンケリンちゃん……。


「うぐっ! …………う、うん。今度からはそうするね」


 こ、心が痛い……。 その、最後を疑問形にして小首を傾げるの、計算じゃないですよね?


「うん!」


 天真爛漫と言った体で答えるエンケリンちゃんに、計算の影など無い!


「と、言う訳なんで不審者アポティーカさん? 宜しくお願いしますね?」


 色々な意味を込めてお願いする私。


 コクコクと頷く不審者アポティーカさん。


 うん、ちゃんと言外の意味もなにがしか受け取って貰えた様だね。


「話は済んだかのう。まぁ、どちらも悪い人間では無いのでお互い仲良くしてくれんかのう」


 そこでオーパ爺が場を治める為だろう発言をした後、続ける。


「アポティーカ、いつもの薬を見せて貰えるかのう」


「あ、はい」


 そう返事をして奥に行く不審者アポティーカさん。


 幾らかして戻った不審者アポティーカさんはカウンターに小さな木箱を置く。


 うん。これだけじゃ何か分からないね。


 不審者アポティーカさんが木箱を開けると、中には……黒と言うか焦げ茶、と言うかそんな感じの色の球体がみっしりと入っていた。


 何だろう……薬って言ってたから丸薬? なのかな? 


 ああっ! そうだっ!  何だっけあれ、正なんとか丸? ってあれを10倍位おっきくした感じだ。これを飲むの? かなり飲み辛そうだよ?


 って言うか、


「くっさ!」


 鼻を摘みながら、閉めて閉めてと、ジェスチャーで示す私。


 そこでふと気付く。あれ? 私今、両手使ってるよね?


 先程まではエンケリンちゃんと手を繋いでいたはず! 何処に! あ、居た。


 その探し求めたエンケリンちゃんは、いつの間にか出口の扉に引っ付いていた。


「エンケリンちゃん?」


 私が呼ぶと、ふるふると首を降るエンケリンちゃん……やば可愛。


 ……うん。相当これが嫌な様だね?


「エンケリンちゃんってお薬苦手?」


 まぁ分かりきった事ではあるがオーパ爺に聞く。


「これを好む者はまずおらんじゃろう」


 だよね。


「じゃあ、早く次に行こう?」


「まぁそうじゃな。顔合わせは終わったしのう。では、これ等を貰うかのう。代金はいつもと同じでよいかのう」


 前半は私。後半はアポティーカさんに向かって言うオーパ爺。


「は、はい。体力回復薬と対毒薬一箱づつで金貨2枚になります」


 支払うオーパ爺。


「では頼むのう」


 運搬を命じるオーパ爺。


「はいはい」


 と、軽い返事で引き受ける私。


 これは塩の箱と違って軽いから何の問題もない……と思いきや、あれ? エンケリンちゃんが近寄って来ないよ?


 オーパ爺を挟んで反対側にいる。


「エンケリンちゃん?」


 そう言ってちょっとでも近付くと、すすすって離れて行く……が~ん。


 薬のせいだって分かってても辛すぎる……。

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