第43話 条件

「そっちはいいんですよ。見えない壁の方です」


 注目して欲しいのはそっちじゃないの、こっちなの。


「わ、分かりました。何を渡せばいいですか? 御金ですか?」


 途端にあからさまな懐柔策、袖の下を発動するザルツさん。え? 何? 物理でおどした感じになってない?


「いや、何も要りませんよ。エンケリンちゃんに近付かないでくれればそれで良いです」


 私は再びザルツさんに同じ要求を突き付ける。


「そんな酷なことはないでしょう」


 如何いかにも被害者ぜんとした雰囲気でそんな事を言うザルツさん。


「酷な事って……仕方ないじゃないですか。何するか分からない危険人物なんですから、当然そうなります。それと何堂々と買収しようとしてるんですか?」


 何で私が悪者みたいに言われないといけないんですかね。


「そんな事を言う人は人として不出来です」


「いや、どっちがですか。幼女に何するか分からない上に、堂々と買収しようとする方が不出来なんじゃないですか?」


 流石に人として不出来は言い過ぎですよね?


「ああ言えばこう言いますね」


 苦り切った表情でそんな事を言うザルツさん。


「丸っきりこっちの台詞ですよそれ」


 呆れ気味に返す私。


「ぐぐぐ、分かりました。金貨何枚ですか?」


 歯ぎしりしそうな顔でそう言うザルツさん。強引に買収話を進めようとしてますよ? この人。


「いや、分かってないですよね?」


 御金要らないってさっき言ったよ?


「金貨じゃ足りないと? 分かりました。なら大金貨10枚でどうですか!」


 私の言葉を無視して話を続けるザルツさん。何か凄い大金になってない?


「いや、だから――」


「くっ、足元を見て……分かりました。大金貨100枚でどうですか! 私のたくわえのほとんどですよ!」


 私の言葉を遮って、更に続けるザルツさん。大金貨100枚っていくらだ?


「だから、金額の問題じゃ――」


「ぐぬぬ、なら200枚ならどうですか! 私が動かせる商会の最大資金です!」


 再び私の言葉を遮って、話しを続けるザルツさん。いやいや、それって横領じゃないの? 駄目なやつだよね? 


「……はぁ。分かりましたよ――」


 これ以上続けると、どんどんエスカレートして行きそ――


「くっ、大金貨200枚とはなんと強欲な」


「ああ! もう! 私の話を最後まで聞いて下さい。聞かないと問答無用で接近禁止ですよ?」


 人の話を聞かずに一人で金額吊り上げてたのに何て言い草か! 人を強欲魔人みたいに!


「くっ、分かりました……」


 渋々と言ったていではあるものの、やっと聞く態勢になったか……まったくもう。


「ふぅ……。先ず御金は要りません。そして私が今から言う条件を守れればエンケリンちゃんと今まで通りに接しても良いですよ」


「!…………」


 目を見開いて驚くザルツさん。まぁ確かに、さっき迄の私の態度だとそんな事は認めない感じだったもんね。


 そして、そこでちゃんと言葉は発しないザルツさん。うん、そこはちゃんと分かってるみたいだね。そういう空気は読めるんだね。


「先ずはエンケリンちゃんを悲しませない。そしてエンケリンちゃんの同意のない行為をしない。最後にエンケリンちゃんを言葉巧みに誘導しない。これらが条件です」


 エンケリンちゃんの自由意思は尊重しないといけないからね。ザルツさんが良いってなったら……苦汁で断腸の思いで認めないといけないかもしれない。……かもしれない。


「そんな事は当然の事です。何の問題もありません。むしろ三つ目の条件の恣意しい的な運用が懸念されますね」


 そんな事は常識です、と言った感じで答えるザルツさん。そして条件の問題点を指摘してくる。

 成る程、なかなか頭の切れる人の様だね。今聞いただけで問題点まで気付くなんてね。


「そうですね。やろうと思えば出来るでしょうね。ですが、その様な指摘が為される様な行為をしなければいいだけの話です」


 恣意的運用の可能性を肯定しつつも、だからなんだ? と返す私。


「ふふ。成る程、確かにそうですね。何の問題もありませんでしたね。良いでしょうその条件を飲みましょう」


 ザルツさんも私の言葉に確かにそうだ、と思った様で、笑いが漏れる。そして条件を快諾した。


「エンケリンちゃんに嫌な思いはさせたく無いので、そこはちゃんとお願いしますよ」


 私の譲れない一線を改めて示す。


「ふっ、愚問ですね」


 何の問題も無い、と言った風に返すザルツさん。……本当に大丈夫だよね?


 う~ん。でも何かこの人はエンケリンちゃんを悲しませるような事はしないって、何となく確信出来るって言うか、なんかそんな感じがするんだよね。

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