第35話 商品部再訪

「ついたよ? リーベスお姉ちゃん」


 そんな無常なエンケリンちゃんの言葉が至福の時間の終わりを告げる。


「……うん」


 渋々ながらエンケリンちゃんを抱いて馬車を降りる。エンケリンちゃんに嫌がられない様にちゃんと地面に降ろす。


 しょんぼりしていた私の手に柔らかな感触が?


 ふと見ると小さなお手手が私の手を掴んでいた……。


 それを辿って視線を上げて行くと……。


「にへへ」


 輝く様なエンケリンちゃんの笑顔が!?


 あっぶな!? 強烈な不意討ちに、思わず膝からくずおれそうになったが、すんでの所で耐えきった!


 危なく支えの為に、握られているエンケリンちゃんのお手手をぎゅっとしてしまう所だったよ。ふぅ。

 非常に危うかったが、何とか大惨事はまぬがれたね。よくやった私。


「リーベスお姉ちゃん?」


「え、あ、ごめんね。ちょっとぼうっとしてたよ」


 そう言って細心の注意を払ってエンケリンちゃんのお手手を握り返す。


「にへへ」


 はぅ、いい……。まさしく護りたいこの笑顔ってやつだね。


 そして、そのまま事務所っぽい所に歩いていく。


「ここ、倉庫だけじゃなかったんだ」


「そうじゃな。売買の金額が儂等位ならちょっとした場所でも良いじゃろうが、そればかりでは無いからのう。ちゃんとした場所も必要な訳じゃ」


「成程」


 そんな会話をしながら事務所に入っていく。


 中に入ると窓口っぽいのが二つ在って、先客がやり取りしているようだ。


 あ、終わったみたい。待つこと無く順番が来た。


「お願いする」


 そこでオーパ爺が受付の男性に木札? を渡した。


「はい、お待ちください。……お名前を伺っても宜しいでしょうか?」


 そう受付の人がオーパ爺に聞く。


「オーパ商会のオーパじゃ」


「ありがとうございます。……12番さん3号でお願いします」


 そう事務所の中に向かって言うと、


「はいよー」


 そんな返事が聞こえた。


「それでは、こちらを持って3号室でお待ちください。追って担当の者が参ります」


 そう言って、また木札をオーパ爺に渡す。


「うむ。……それでは行くかのう」


 木札を受け取ったオーパ爺はそう言って私達を促すと、受付の左側の方に歩いて行く。


 あ、こっちも支部みたいに受付の左側に部屋が幾つか在るみたいだね。


 そして、1号室、2号室と書かれている扉を素通りして、3号室と書かれている扉に入る。


 部屋の中は支部のあの部屋と同じ様な感じだね。ぱっと見た感じの違いは、壁の修飾が違う位かな?


 えっと、座る場所は支部の時と同じ場所で良いのかな?


 そう思っていたら、オーパ爺に席をしめされたのでそこに座る。うん。同じで良かったみたい。


 ん? オーパ爺が隣に座るの? エンケリンちゃんは?


 そう思っていると、太股をぽんぽんされる。


 ん? エンケリンちゃん? あっ! やっぱりここがエンケリンちゃんの席!? そう思って立ち上がろうとすると――


「ちがうよ、リーベスお姉ちゃん。わたしの席はここ」


 そう言って、私の太股をぽんぽんする。


 私は立ち上りかけたのを座り直し、自分の太股を叩きながらエンケリンちゃんに問いかける。


「……ここ?」


「うん!」


 そう言って、にっこり笑顔。


 思わず顔を両手で覆って天を仰ぐ。


 まじか、にっこり笑顔の破壊力も強烈だったが、まさか、膝抱っこを御所望とは……。


 うおぉ……落ち着け私、余り時間を掛けると嫌がってると思われてしまうぞ!


「すーはー、すーはー……よし。どんとこい!」


 私はそう言ってエンケリンちゃんに向かって両手を広げて、さあどうぞのポーズを決める。


「あははっ! なにそれっ!」


 エンケリンちゃんに思いっ切り笑われてしまった! ううぅ、まぁ確かに、どんとこいってなんだよ、どんとこいって。うぅ、恥ずかしい。


 あはは、から、ふふふ、に変わっても、まだ笑ってるエンケリンちゃん。


 私は思わず照れ隠しに、くるっとエンケリンちゃんを回して背を向けさせると、腋の下に手を突っ込んでひょいっと持ち上げて、私の膝の上に座らせた。


「わっ、わっ、わっ、わっ」


 私の行為の一つ一つに驚きの声を上げるエンケリンちゃん。可愛過ぎ!


「……ありがとう! リーベスお姉ちゃん!」


 そんな突然の私の蛮行にもかかわらず、自分が膝抱っこされていると認識したら、笑顔でありがとうを言うエンケリンちゃん!


 なんて可愛良い娘なの! こんな娘に出会わせてくれてありがとう神様! ――あ、……ありがとうデア!

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