第32話 登録

 ――迸る! なんて事は無く。ほやん、と板がほのかに光る。


「はい。ありがとうございます。もう大丈夫ですよ」


 そう言われて、板から手を放す。すると光が消える。その時表面を見たけど、指紋がべったりって事は無く、相変わらずぴっかぴかでちょっと安心した。


「それでは、オーパ商会の手代登録も行いますね。オーパ会頭、登録証をお預りしても宜しいでしょうか?」


「うむ」


 そう言って登録証を受付の女性に渡すオーパ爺。はて? 今、登録証が赤く見えたような? 登録証って茶色っぽい感じじゃなかったけ?


「ありがとうございました。こちらはお返しします」


「うむ」


 受付の女性から登録証を受け取るオーパ爺。やっぱり赤いよね?


「っ!? お、お待たせ致しました。こ、こちらが……リーベス様の登録証になります。ご確認下さい。……本当にこちらで登録してもよろしかったのでしょうか?」


 オーパ爺に登録証の色について聞こうとした所で、私の登録証が出来たっぽい。受付の女性が登録証を差し出してる。何かぷるぷるしてるけど?


 さっきまで出来る人って感じの仕事振りだったのに、突然動揺した感じになった上、最後の方は小声で不穏な言動を貰った。


 え? 何? …………っ!? やらかしたー!


 ——リーベス・クライネス゠メーチィシェン

 オーパ商会 小手代

 アインシュタッド——


 受け取った登録証を見ると、そこにはばっちりとフルネームが記されていた。


 うおおおおお……。


「こ、この後ろの方って消せません?」


 名前の後ろ、クライネス゠メーチィシェンの部分を指して言う。


「は、はい。可能です」


「あ、出来るんだ? じゃあ、お願いしても良いですか?」


かしこまりました。それでは登録証をお預りしても宜しいでしょうか?」


「あ、はい。どうぞ」


 差し出された手に登録証を渡す。


 ふぅ。危なかった……。めんどくさい事になるところだったね。何とかなって――


「あ、あの」


「ひゃ、ひゃい」


 思わず変な声出ちゃったよぅ。恥ずかしい……。


「さ、差し出がましいのですが、任意で表示、非表示を切替え出来る様にする事も出来ますが、如何致しますか?」


「ん? ……それって基本は前だけで、出したい時に後ろも出せるって事ですか?」


「は、はい。そうなります」


 う~ん。どうしようか? 出来るなら出来る方が良いかな? 必要無ければ使わなければ良いだけだしね。


「あ、表示する条件ってどうなるんですか?」


 魔力の繊細な操作だと出来る気がしない……あ! でも完全操作能力さんがあったっけ。


「はい。表示する、と念じる事で表示されます」


 念じる……まぁ、それなら誤表示の心配も無さそうだし、大丈夫かな?


「じゃあ、それでお願いします」


うけたまわりました」


 それほど難しい作業ではなかったようで、登録証は直ぐに完成した。


「お待たせ致しました」


 そう言って、登録証を手渡してくれる。


「ありがとうございます」


 受け取る私。


 ——リーベス

 オーパ商会 小手代

 アインシュタッド——


 よしよし、今回は大丈夫だね。全表示もチェック。


 ——リーベス・クライネス゠メーチィシェン

 オーパ商会 小手代

 アインシュタッド——


 うん。大丈夫だね。非表示って思えば消えるみたいだし。


「あ、出来ればこの事は内緒で……」


「畏まりました」


「あ、後、話し方は手代を相手にするようにね?」


「承りました」


 分かってくれたんだろうか?


「それでは登録証の新規発行と手代登録で、銀貨4枚になります」


「あ、はい。オーパ爺?」


「手数を掛けたのう」


 そう言ってオーパ爺が銀貨4枚を渡す。


「とんでもございません」


「ありがとうございました」


 私がそう言うと、受付の女性は綺麗な礼を返してくれた。


「それでは、あちらに行こうかのう」


 そう言うとオーパ爺は入って左側の幾つかある扉の方に向かって行った。


 エンケリンちゃんと一緒に付いて行く私。


 一番左側の扉に入るようだ。


 部屋に入ると、縦長の机と、その左右に二脚づつ簡易な椅子があった。


 オーパ爺が右側奥に座り、座る様に促してくる。

 なので私は左側の奥に座り、エンケリンちゃんは私の隣に座った。


 それにオーパ爺が何とも言えない表情になった。気持ちは分からんでもない。可愛い孫娘が自分の方じゃなく、ぽっと出の不審者の方に行ったのだ……私なら耐えられない。


 そんなオーパ爺が真面目な表情で言った。


「話してくれるんじゃろうな?」


「おなまえかえたの?」


 エンケリンちゃんがずばっと切り込んできた。うん。まぁ、そうだよね。あんな至近距離でやり取りしてたんだから聞こえない筈がないよね?

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