第28話 天使顕現

 そう、正に天使と呼ぶべき存在がそこにいた。


 陽の光を受けてきらきらと輝く金の御髪に——


「……リーベスお姉ちゃん?」


 透き通るような白い肌、それは正に白皙はくせきと呼ぶに相応しいもの——


「……えっと、終わったの?」


 その背中にはまさに白い翼を幻視して――


「リーベスお姉ちゃん?」


 はっ! 


「お、終わったよ。もうお目目開けていいよ」


 いかん、余りの神々しさに心奪われてしまっていた……。


「すごいすっきりし――わっ! わっ! なにこれ! すっごくきらきらしてるよ! わっ! わっ! それにつるつるさらさら!」


 エンケリンちゃんが自分の髪を見て、触って、大興奮してる。


「わーすごーい。えへへ、すごーい」


 自分の髪に頬擦りして悦に入っているエンケリンちゃん。うんうん、良いことをした。


 いや、しかし流石に喜び過ぎなんじゃ? まるで一度もこの状態になったことが無いみたいじゃ――これはオーパ爺に物申して置かないといけない――と思ったんだけど凄い顔してるねオーパ爺。口開けて目見開いてるよ。


「オーパ爺?」


「ほっ! いやまたとんでもない事をするのう」


「とんでもない事って、ちょっと洗っただけだよ」


「ちょっとじゃと!? 今まで見たこと無いぞい。こんなエンケリン」


 凄い剣幕で返された。


「……ちゃんと洗ってあげてた?」


 にわかに発生した疑惑をオーパ爺に問う。


「それはたまににはなってしまうが、ちゃんと洗っておったわい。洗った直後でもこんなには、いや生まれて此の方一度もこの様なエンケリン見たこと無いぞい!」


 後の方は物凄い勢いで捲し立てられた。


「そ、そう?」


 う、う~ん。これはもしかしなくても私のせいなのかな? となると怪しいのは妄想力補完さんか? 私が綺麗になれ~って、洗浄魔法を漠然とし過ぎた創り方をしたもんだから、補完さんが忖度そんたくしてそれぞれの物に対して最高の洗浄を行う超力洗浄魔法になってるんじゃ……。


 うん。まぁ、なってしまったものはしょうがない。何よりエンケリンちゃんが喜んでるんだから、それより大事な事ってある? 無いよね?


「このエンケリンを連れては行けんじゃろう」


 オーパ爺が渋い声で言う。あ、いい声って事じゃないよ?


「え? あ……目立つよね?」


「目立つ、何てもんじゃ無いわい。先ず間違いなくろくでもない者に目を付けられるわい」


「……あ、エンケリンちゃんが超モテモテに?」


 それはいかん、変な虫が付かない様にしないと……。


「……それもあるじゃろうが、何より人さらいに狙われるわい」


 むむ、確かに……そっちの方が深刻だね。私が側に居れば何の問題も無いけど、常に一緒と言うわけにはいかないかもしれない。何か対策を考えないとだね。


「う~ん。となると見た目は元の感じに戻した方が良いのかな?」


「……そうじゃろうがのう」


 なんとも言えない表情でエンケリンちゃんを見るオーパ爺。そして私。


「にへへ……」


 まだ悦に入っておられます。このエンケリンちゃんに元に戻すよ、とはとても言い辛い。


 とは言えだ、でも私の幻影魔法で解決出来る筈だ。エンケリンちゃんが皆に見せびらかしたい、といやいやしなければ問題は無い。……それはそれで見てみたい気もするな。


「エンケリンちゃん、ちょっと良い?」


「にへへへ……、あ! リーベスお姉ちゃんありがとう!」


 満面の笑みでお礼を言ってくるエンケリンちゃん。


「え? あ、うん、どういたしまして……」


 何だろう、物凄く言い辛くなったんだけど……。

 ううう、でも、エンケリンちゃんの安全には変えられ無いよね?


「えーと、エンケリンちゃん? 折角きらきらになった所悪いんだけど、元に戻して良いかな?」


「え?」


 満面のにへへ笑顔がすん、と消えて次第に涙ぐんでいく。


「えっ!? あっ! 違くて! ほんとに元に戻すんじゃ無くて! 私みたいに、ほら! えーと、見た目だけね? 皆からは元のエンケリンちゃんに見えるようにね?」


 しどろもどろになりながら何とか説明する私。


「みんなに見せちゃだめなの?」


 うるうるお目目でそんな事を言われたら、


『オッケーに決まってるじゃん!』


 って、思わず言いそうになったけど、なんとかこらえる。


「エンケリンちゃんが可愛すぎるから、悪い人達にさらわれたりしたら大変だからね?」


 一瞬嬉しそうにするも、また沈むエンケリンちゃん。


「ブルーメちゃんにも見せちゃだめ?」


「ブルーメちゃん?」


 どちら様? オーパ爺を見る私。


「近所の友達じゃな」


 う~ん。子供なら大丈夫かなぁ? でも、話ちゃいそうだよね? う~ん、安全第一かな。


「今は我慢してくれるかな? 私が側に居なくても安全になるような方法を考えるから」


「そしたらブルーメちゃんに見せても良い?」


「勿論だよ。私だってエンケリンちゃんをこんなに可愛くしたって自慢したいもん。だから少しだけ待っててね」


「にへへ。わかった!」


 笑顔で快諾かいだくしてくれるエンケリンちゃん。


 ふぅ、なんとかなって良かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る