第23話 なければ

 窓から光が入って来る。今日もいい天気そうだ。


 私の天気は最悪……だったものが、先程回復した。


 やはり先達せんだつは偉大だ。そうなのだ、無ければ作ればいいのだ。有り難う先輩方諸姉しょし


 それを私はショックの余り一睡もせず、一晩中呆けてしまっていた。慚愧ざんきに絶えない。


 何よりエンケリンちゃんに心配を掛けてしまっただろう。あの後は明らかに異常だった。エンケリンちゃんの声も殆ど耳に入らなかったし、かなり心配気な声を掛けられてた様な気がする。


 それに、折角一緒のベッドに寝てるのに何にも堪能してないよ!? 取り急ぎ寝顔だけでも堪能せ――


「あ、おはよう。リーベスお姉ちゃん」


 ――ね、ばあぁぁぁ……無念。


「リーベスお姉ちゃん?」


 起き上がって、そう不安そうに呼び掛けて来るエンケリンちゃん。


「あ! ごめんね! ぼーとしてた! おはよう、エンケリンちゃん」


 私も起きて慌ててそう答える。


「………………?」


 エンケリンちゃんが何やら呟いているが、声が小さくて聞こえない。


「エンケリンちゃん?」


「あっ! ごめんなさい! やっぱりおふろ? が無い家じゃだめかな?」


 慌てて謝ったと思ったら、唐突にそんな事をしゅ~んってなりながら、声も尻すぼみに聞いてくる。


「へっ!?」


 もしかして、なんか凄い大変な事になってる?


「あっ! えっと! その事でオーパ爺に話が有ったんだった!」


 慌ててそう返す私。更にしゅ~んとなり俯くエンケリンちゃん。


 うええー!? 何でー!? 私何か不味い事言った!?


 直前の自分の言葉を思い出す。


『あ! えっと! その事でオーパ爺に話が有ったんだった』


 と、特に問題無いよね? じゃあその前?


『あ! ごめんなさい! やっぱりおふろ? が無い家じゃだめかな?』


 んん?


『おふろ? が無い家じゃだめかな?』

『その事でオーパ爺に話が有ったんだった』


 ん~ん? 確かに否定しなかった。その上で話が有るって言ったら……お風呂の無い家には住めないからオーパ爺に言って出ていきます的な?


 これかー!


「私出ていかないからね!」


 エンケリンちゃんの両肩に両手を添えてそう言う私。


「ふぇ?」


 ふぇ? な表情で顔を上げるエンケリンちゃん。当然上目遣いになる。しかも!? ちょっと目がうるうるしてる!? や、やばい……なんと言う破壊力だ……。


「えっと、オーパ爺に確認してからと思ってたんだけど、お風呂を作ろうと思うんだ」


「おふろを? 作るの?」


「うん。でも場所とか、そもそも作って良いのか聞いてからと思ってたから……」


「一緒に住む?」


「勿論!」


「おふろ? 無くても?」


「……も、勿論!」


「よかった~」


 心底安心した様に、ふにゃんと笑うエンケリンちゃん。目尻にちょっと光るものがぁぁぁ! やばい! やばい! やばすぎる! 写真! 写真を! ああ! スマホもデジカメも無いよ! 魔法! 魔法だ! 今すぐ写真魔法を創るんだ! ……よし!


「激写!」

 カシャッ!


「わっ! なに!?」


 私が謎の言葉をえたのと、疑似シャッター音に驚くエンケリンちゃんを余所よそに、私は手元に生成された手のひらサイズの画像を確認する。


「よっしゃー!」


 完璧だ! 完全にさっきのやばすぎるエンケリンちゃんが激写されている!


「リ、リーベスお姉ちゃん?」


 あ、やば……。エンケリンちゃんが物凄く戸惑ってるよ!


「は、早くオーパ爺にお風呂の許可を取りに行こう!」


「え? あ、うん」


 私の強引なスルーに戸惑いつつも返事をするエンケリンちゃん。


 何かつっこまれる前にと、さっとエンケリンちゃんの手をとってオーパ爺のもとに向かう私。


 やってしまった!? やってしまった! エンケリンちゃんの手を握ってしまった! だ、大丈夫かな? 嫌がってない? 何度かエンケリンちゃんの方からお触りしてくれたから、そこまで忌避きひされて無いと思うんだけど……。


 エンケリンちゃんの方をちらっと見ると……俯いていて表情は分からない……でも、微かに見える口許くちもとが少し上がっているような……? ああ! これ以上は怖くて見れない! 嫌がってないといいなぁ……。



 そのままリビングに向かうと、オーパ爺が何かを飲んでくつろいでいた。流石お年寄りは朝が早い。


「おはよう、オーパ爺。ちょっといいかな?」


「おはよう、二人とも。エンケリンはともかく、お前さんがもう起きて来るとは思わんかったぞ」


 まぁ寝てないんですけどね。


「それで何事じゃ」


「お風呂作っていい?」


 ずばっと切り出す私。


「おん?」


 変な声を出すオーパ爺。


「おじいちゃん、いいよね?」


 オーパ爺にせまるエンケリンちゃん。


「待て待て、話しが見えん。何の話じゃ?」


 その勢いに押されるも、どう言う事かと聞くオーパ爺。


「この家にお風呂作りたいんだけど」


 端的に述べる私。


「風呂? 家にか?」


「そう」


「……あ~、お前さんの事じゃから作れるんじゃろうな」


 呆れが入った声音でそう言うオーパ爺。


「うん。何処なら作って良いかな?」


「最早作るのは前提じゃな」


「おじいちゃん?」

「…………」


 期待の眼差しを向けるエンケリンちゃんと私。


「分かった分かった、好きな所に作るといい」


「やったー!」


 諸手もろてを上げて喜ぶエンケリンちゃん。


「じゃあ、ちょっと家の回り見てくるね」


 それでは早速行動を。


「あ! ごはんの用意しなきゃ!」


 そう言うと台所に向かうエンケリンちゃん。


 あっ! これじゃまたお手伝い出来ないよ!   

 さくっと予定地決めてエンケリンちゃんのお手伝いをするぞ!

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