第22話 絶望
一人顔が熱くなっている私にエンケリンちゃんが言う。
「えっと、お口に合ったかな? リーベスお姉ちゃん」
「聞くまでも無いような気がするがのう」
オーパ爺がそんな事を言った。まぁそうですけどね?
もう! 何で二人して見てるの!? 恥ずかしいじゃん! うう~、エンケリンちゃんに、みっともない所を見られちゃったよ~。
それはともかく、エンケリンちゃんの問いに答えなければ!
「とっても美味しかったよ!」
私がそう言うと、
「よかった~」
心底ほっとしたって感じで言った後、にへへ、と笑いかけられ――
「あれでそうじゃ無かったら驚きじゃわい」
オーパ爺うるさい! 折角のエンケリンちゃんのにへへ笑いが!?
あはは、と笑うエンケリンちゃん。うん、こっちも可愛い。でも、あの照れが入った感じが堪らなく良いのに!
折角の堪能の機会をよくも…………はっ! いけない! ⚫️黒面に落ち掛けた! オーパ爺め、どんだけ私の精神を試すつもり——はっ!? もしかして抜き打ち試験か!? 私がエンケリンちゃんの傍に居ても良い存在か試されていた!? なんてこった……危ない所だった……気付かなければ知らない内に失格になっていたかもしれない……だが気付いたぞ! 最早私に油断は無い! いつでも返り討ちぜよ!
そんな決意の視線をオーパ爺に送る。すると……。
「仕方ないのう。ほれ」
やれやれ、といった感じで、ちぎったとろチーストをこちらに
「……何?」
「いや、足りんかったんじゃろ? あんなに熱心に見詰められたら、あげない訳にはいかんじゃろう」
それを聞いたエンケリンちゃんが慌てて言う。
「ごめんね! リーベスお姉ちゃん! わたしのも食べていいよ!」
そう言うと、食べ掛けのとろチーストをこちらに寄越そうとする。
「良いの! って、違う違う! そうじゃ無いから! 足りないから寄越せって、視線を送ってた訳じゃないから! 十分足りたよ!」
くっ、オーパ爺め。
私の視線をさらっと流した挙げ句、食いしん坊キャラ疑惑を掛けて来るなんて、エンケリンちゃんに信じられたらどうする気だ!
「リーベスお姉ちゃん、ほんとに足りた? もう一枚焼こうか?」
ほら、言わんこっちゃない!
「いや、本当に足りたからね。多く作らなくて良いからね?」
この子の事だ、きっと今度はいっぱい作ろう、とか考えてる
「……ほんとにいいの?」
ほら、やっぱり! ちゃんと言って良かった。
「折角いっぱい作って貰っても、食べら切れないと私が悲しいからね。足りないときはちゃんと言うよ。そこは私を信じて欲しいな?」
「! うん! わかったよ! リーベスお姉ちゃん!」
はっ、とした様な反応の後に、そう元気に答えてくれるエンケリンちゃん。ええ子や。
それに引き換え……。オーパ爺の方を見る。
「変な遠慮はせんでいいんじゃぞ」
「してないからね!」
「その方が儂もエンケリンも嬉しいからのう」
そう言って笑うオーパ爺。エンケリンちゃんもにこにこしてる。何ていい人たちに出会ったの出逢ったのだろうか、これも運100のお陰か。
しかし、完全に有耶無耶にされてしまったな。まぁいいや、私が油断しなければいい話だからね!
そんなこんなしてたら、皆食べ終わった様で、お片付けだ。
今度は私も参加する。エンケリンちゃんは例の如く自分がやると遠慮するが、こいつを見たら洗い物は私担当になるんじゃないかな?
それでエンケリンちゃんに聞いた所、洗い物は外の井戸の所でじゃぶじゃぶするそうだ。今の時期なら良さそうだけど、冬場とか凄く辛そうなんですけど!?
これはいかん! 早く見せて洗い物担当にならなければ!
そして使った食器を井戸の側の洗い場に置く。
「これでどうするの?」
エンケリンちゃんが不思議そうに小首を傾げて、置かれた食器を見る。これまた可愛い。
「おほん、こうします。……洗浄!」
すると、食器が水に包まれ
「え!? え!? え!?」
エンケリンちゃんがとってもびっくりしてる。目を見開いて、口は半開きだよ! やばい! やばい! 可愛すぎでしょ! こんな可愛い生き物が存在してていいのか! 良いに決まってるね!
「……うわぁ、すごい、きれいになってる」
エンケリンちゃんが食器を見て、そう感嘆の声を漏らす。
「——はっ、そ、そうでしょ? だから洗い物は私に任せて欲しいな」
危ない危ない、エンケリンちゃんの可愛過ぎさに興奮し過ぎていたよ。
「う、う~んでも……」
なかなか頑固な所があるね、エンケリンちゃん。まぁずっと自分がやってきた仕事だって言うのもあるんだろうけど……仕方無いか。
「私もお客さんじゃなく、この家の一員になる為にも、家事の担当を受持ちたかったんだけど……」
どうだ!? この言い方なら優しいエンケリンちゃんの事だ断れまい!
「ううぅ、そんな事言われたらだめって言えないよ」
「困らせてごめんねエンケリンちゃん。でも、お家の仕事を任されると、認められたって思えるから」
「うん。わかったよリーベスお姉ちゃん。これからよろしくお願いします」
「任されました! あ、でも、私の仕事が駄目だったら、その時はちゃんと言ってね? 遠慮無くね?」
「うん。そんなことはないと思うけど、その時はそうするね」
「それじゃあそろそろお風呂の準備をしないとね」
「? おふろ?」
とっても可愛く何それ、って感じで小首を傾げるエンケリンちゃん。
んん?
「ね、寝る前に入るでしょ? お風呂」
「入る? おふろ?」
えっと?
なんだこれは……わたしのあたまがりかいをきょひしている……いやこころか?
「リーベスお姉ちゃん?」
「チョットオーパジイニキイテクルネ」
「え? う、うん」
「お貴族様じゃ無いんじゃから、そんなもん在るわけ無いじゃろ」
そこには絶望しかなかった。
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