第21話 両親

「それは確かに聞きたかった」


 おいおい聞ければ良いかと思ってたけど、聞かない方が逆に変だったかな?


「何か察して聞かんでくれてたようじゃが、何れ分かる事じゃしな」


「端的に言えば二人とも行方不明じゃな。その頃はまだ婆さんも居ったから、幼いエンケリンを預けて、二人で隣街まで取引に行っておったんじゃ」


 そこからはよくある話かと思いきや、ちょっとしたミステリーだった。


 隣街で取引を終えた帰り道で二人は忽然と消息を絶ったらしい。そして馬車や商品だけが綺麗に街道に残っていたと言うもの。

 勿論護衛も雇っていた。それに魔物が原因なら、回りや馬車に痕跡が残るだろうがそれが無く、護衛も同様に消息不明になっているので、護衛ごと野盗に拐われたか、護衛もぐるで拐われたか、の可能性が高く、捜索も行われたが、全く手掛かりは見つからなかったらしい。


 それが4年程前の話で、エンケリンちゃんは丁度2歳になった所だったので、両親の記憶は殆ど無いらしい。

 むしろ二年前に亡くなった婆さん、オーパ爺の奥さんでエンケリンちゃんの祖母にあたる人を喪ったのがショックだった様で、大分塞ぎこんでいたようだ。

 それから二年間、行商に同行するようになって、次第に笑顔を取り戻し、現在では天真爛漫と言えるような状態になったそうだ。


 あまりの話に泣いちゃいそうになった。

 よくぞエンケリンちゃんの笑顔を取り戻してくれた! やるな、オーパ爺!


「お前さんに出逢ったのも良かったのかもしれんのう」


 なんて、嬉しい事を言ってくれるオーパ爺。


「そうだったら嬉しいね」


 エンケリンちゃんの笑顔の為なら何でもするよ!


「できたよ!」


 そこでエンケリンちゃんが声を上げる。

 そう言えばとっても良い匂いがするよ。


「手伝うよ」


 そう言ってエンケリンちゃんのもとに行く私。


「あ、リーベスお姉ちゃん! じゃあ運んでもらえるかな?」


 其々それぞれに盛り付けられたお皿を指して言うエンケリンちゃん。


「了解です」


 それに答えて料理を運ぶ私。なにこれ超美味しそう何だけど!? とろとろチーズが絡み付いたトースト? これはやばい……。もうひとつの何かのスープの方は見た目は特筆すべき事は無いね。


 料理を並べ終えてみんな席に着くとオーパ爺が言った。


「では食べるかのう」


 その言葉で食べ始める二人。あ、特にお祈りとかは無いんだね。

 じゃあ私もいただきますか。


「いただきます」


 両手を合わせてそう言った私を不思議そうに見る二人。あ、テンプレですね? ってエンケリンちゃんがスプーンを口に咥えたまま固まってるの可愛い過ぎるんですが!?


「……おほん。これはね――」


 落ち着いた所でテンプレの説明をする。


 食事の糧となったものたちと、それを育んだ自然への感謝と、料理を作ってくれた人への感謝。引いては、その全ての根源たる女神様への感謝を言葉にした的な説明をした。


「うわぁ、なんかすごいね。リーベスお姉ちゃん」


「そうじゃのう。しかし、言われてみればその通りじゃ。エンケリン、儂らもリーベスにならうとしよう」


「うん!」


「いただきます」

「いただきます」


 いただきます、するエンケリンちゃんがとっても可愛い! 初めての事で少しぎこちないところがまた良い!


 ……おほん、ちょっと大仰に言っちゃったかもしれないけど、実際に女神が実存するこの世界だ、感謝すべき対象が明確な分、より実感を持って感じてるんじゃないかな。むしろ類似行為が無い事の方が驚きだ。


 まぁ、前置きが長くなったが、何はともあれ実食だ! エンケリンちゃんの手料理を食べるのだ!


 先ずは、とろとろチーズまみれのトーストだ。これのビジュアルがやばすぎる。視覚からこれは美味いを叩き付けてくる!


「あむ……!」


 ほら美味い。とろとろのチーズの濃厚な旨味と少しの塩味、それに表面はさくさく、中はふっくらとしたパンの食感と仄かな甘味……そのマリアージュが堪らなく美味い!


 異世界料理は不味いとは誰が言っただろうか? 超美味いんですが!?


 では、お次はスープを……こちらは絵的な強さは無い。具に何かの根菜らしきものと何かの肉らしきものが入っているシンプルなスープだ。いや、加工済みなので具材が何かは分からないよ? だから見た感じ。


 スープを実食。


「!」


 これは……正直驚いた。あの短時間でこれ程の旨味が出るのか。素材が良いのだろうか? この根菜らしきものと何かの肉らしきものが相等良いものなのか……。

 しかし、祖父と孫の二人だけの行商でそこまで稼げるだろうか? いや、詮索は後でいいか、今は幼女が作ってくれた美味しい料理を冷めないうちに食べてしまおう!




「……ふう。御馳走様でした」


 ああ、美味しかった。手を合わせて御馳走様をして人心地つく。そして、ふと目線を上げると二人がじっと私の事を見ていた!?


「うぇっ!? え? なに?」


 思わず変な声が出た。え? なに? ずっと見てたの? 思えば私、今超がっついてたよね? みんな食べてるから目立たないかと思ったら、え? ずっと見られてたわけ? 恥ず過ぎるんですけど~!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る