第20話 防犯

「オーパ爺!」


 まだ馬車で荷物の整理をしていたオーパ爺に吶喊とっかんする私。


「んお!? なんじゃ突然!?」


 驚くオーパ爺。急いだ私の速度は尋常じゃ無いんだった。気を付けねば。いや、今はそんなことよりも!


「家にも結界? とやらを張りたいと?」


 そう、至急このエンケリン家の防犯体制を構築したいのだ!


「そう、家と厩には侵入防止の結界、敷地には一定以上の大きさの生き物の侵入を報せる機能が付いた結界」


 そう早口で捲し立てる私。


「お、おお。お前さんの負担にならん様なら張って? 貰えるなら安心じゃが……」


「じゃあ張るね。家と厩の方は私達と、私達が許可した人だけが入れる様にするね。あっ一度許可した人でも、拒絶すれば弾き出す仕様にしとくから」


「お、おお。至れり尽くせりじゃのう」


「じゃあ張って来るね!」


 私はそうオーパ爺に言うと先ずは家に向かう。


 玄関先に着いた私は家の回りをぐるりと一周する。それで得たイメージを基に、家に先程言った侵入防止の結界を張る。

 私にとっては実に簡単な作業だ。こんな事でエンケリンちゃんの安全が手に入るならやらないと言う選択肢はないよね。


 厩も同様の手順で行う。残念ながらエンケリンちゃんはもう居なかった……オーパ爺の手伝いにでも行ったのかな?

 シュトゥーテにも結界の話をして了承を得たので、さくっと結界を張った。


 最後に敷地全体に侵入警報の結界を張る。その為に外周を廻った訳だけど、柵と生籬いけがきしっかりと境界が引かれていた。一介の行商人が持つにはかなり良い家なのではないだろうか?


 まぁ、この世界の家の値段や、行商人の稼ぎがどの位か分からないから、なんとも言えないけどね?


 ともあれ、結界は張り終わったからオーパ爺に報告しますか。


 先ず馬車に行ったけど誰も居なかったのでお家に入る。


「お邪魔しま~す」


「おお、終わっ――」

「リーベスお姉ちゃん! ちがうでしょ!」


 オーパ爺の声をさえぎって、大きな声で注意して来るエンケリンちゃん。


「ええっ!?」


 エンケリンちゃんがぷんぷんしてる……やばい、可愛い過ぎる……いやいや! そんな場合じゃ無い! 私何で怒られてるの? …………あっ!


「ただいま?」


「おかえりなさい! リーベスお姉ちゃん!」


 にへへ、と締まり無く笑うエンケリンちゃん……何なのこの可愛い生き物は……。


 でも、良かった。正解だったみたいだね。


 しかし、何故私はこんなにもエンケリンちゃんに好かれているのだろうか? ……好かれてるよね? 自意識過剰な勘違いじゃ無いよね? 聞いてみたい気持ちはあるけど怖いから止めとこう。


「オーパ爺、結界張り終わったよ」


「おお、そうか手間を掛けたのう」


「ううん、私がやりたかった事だし、私にとってはたいしたことじゃ無いからね」


「それでもじゃ、感謝するぞい」


「うん」


「リーベスお姉ちゃん、けっかい? って何?」


「ん?」


 あっ、そうか。エンケリンちゃんには何も話して無かったね。


「えっと、結界ってのはね――」


 そこで、現在張ってある結界の効果と強度実験の結果をエンケリンちゃんに説明する。


「すごい! すごい! リーベスお姉ちゃんそんなことまでできるの!?」


「ま、まぁね」


 エンケリンちゃんの言葉に私のイメージ上の鼻がぐんぐん伸びていく。


「わたしもそれ見たかったなぁ」


 その言葉に伸びていた鼻がしゅるしゅると萎んで行く。


 良かった……あの場にエンケリンちゃんが居なくて本当に良かった。あんな無様な姿をエンケリンちゃんに見せる訳にはいかないからね!


 きらきらした目でこっちを見てるエンケリンちゃん……これはやらなけゃいけない流れかな?


「き、機会があったらね?」


「約束だからね! リーベスお姉ちゃん!」


 まぁ、同じ失敗をしなければいい話だもんね? エンケリンちゃんの前で無様を晒す事は無いはず……。


「そろそろ食事にしようかのう。エンケリン」


「うん! じゃあ用意するね!」


 当然の様にそう答えるエンケリンちゃん。


「え!? エンケリンちゃんが作るの!?」


 思わず声が迸る。


「うん! 簡単な物しかできないけどね」


 何と! 早くもエンケリンちゃんの手料理を食べる事が出来るだなんて!


「私も手伝う――」


「いや、お前さんにはちょっと話しておきたい事があるんじゃ」


 エンケリンちゃん一人にやらせる訳にはと、声を上げた私を遮ってオーパ爺にそう言われた。


 それを受けてエンケリンちゃんが言う。


「ありがとうリーベスお姉ちゃん。でも、いつもやってることだから大丈夫だよ」


「う~ん、じゃあ次はお手伝いするね」


「うん! 楽しみ!」


 そう言って台所スペースに向かうエンケリンちゃん。うぅ~初めての共同作業が……。


「で? 何?」


 いかにも不機嫌ですって声音を出す私。


「そんな怒こらんでくれ。……エンケリンの両親の事じゃ」


 重要事項の伝達でした。

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