第19話 素の力

 って! 思わず口走ってしまったじゃないか!


 いや、ほんと何これ? どうなってんの?


 土壁の真中辺りに丸く穴が空いてて、左側に棒が伸びてる感じに穴が空いてる……。


 うわぁ……もしかしなくても、これ私がやったんだよね? 振り抜いた形に型抜きしちゃった?

 視線を転じて土壁の向こう側を見ると、そこには土壁の破片らしきものがばらばらになって落ちていた。

 うん。型抜きされた物が飛んで行って、結界に当たってばらばらになったのかな?


 ……いやいや、なんじゃそりゃ! え? どゆこと? いやいや、そうはならんでしょ!?


 ふぅ……ちょっと取り乱してしまった……。


 う~ん。しかし、これは特殊技能が悪さをした訳じゃない気がするね……。物理系に関係有るのは幼女の守護者だけだけど、そもそも発動してないからね。


 と、言う事はだ。素のパラメーターが原因と言う事ですよね? いや嘗めてたね能力値100。怪物レベルだとは知ってはいたはずだけど、実際にこんな事が軽く出来るレベルだとはね。


 う~ん。これは幼女の守護者発動時だけじゃなく、普段もリミッター魔法が必要そうかな? 自分を制御出来る気がしないよ……。惨劇が起きる前に気付けた事を良しとしよう。


 ふと見ると、オーパ爺が呆然と尻餅を付きながらこっちを見ていた。


 あ、オーパ爺には悪いことしたなぁ。


「じゃあ、これから結界強度試験を始めるね」


「まだやるのか!?」


「え? だってまだ結界叩いてな……いや、叩いたか……いや! あれは不可抗力だから! これからが本来予定してたやつだから!」


 そう言って私は土壁の隣に馬車を覆った結界と同等の強度の結界を出す。サイズは縦横1.5m、厚さは極薄の1mmだ。


「じゃあ行くよ!」


 さっきと同じ様にフルスイングだ。検証は同じ条件じゃ無いとね。


「ふん!」


 ばんっ!


「うひゃぁ!?」


 急に軽くなった腕に振り回される私。以前の私ならここで無様ぶざまに地面を転げ回った事だろう。しかし! 今の私は違う! 華麗なステップと巧みな体捌きで体勢を立て直す。


「ふぅ、びっくりしたぁ」


 手に持った土槌を見る。只の土の棒になってる。


 そして先程フルスイングをかました結界を見る。勿論無傷だ。よし! 完璧。


 何故かその結界の前に砂が盛ってある……何だあれ?


 あんな所に砂を盛った記憶はない。先ず盛る意味がわからない。そして誰かがやるのはまず不可能だろう。この結界内には誰も入れないからね。


 だとすると、考えられるのは土槌の頭部分の残骸だろうか? いや何で砂になってるの? 粉々になるかなぁとは思ってたけど、なりすぎだよね? 粉になってるじゃん!? これは特殊技能だけじゃなく、早期に素の能力の検証も必要そうだよ。


 あ、オーパ爺忘れてた。


「まぁこんな感じだよ!」


 呆け顔だったオーパ爺がはっと再起動して言う。


「トンデモナイノウ」


「そうでしょそうでしょ、我ながら良く出来てると思うんだよね」


 ぽんぽんと結界を叩きながら、ふふん、と思わずどやってしまう私。


「…………」


「じゃあ馬車は結界掛けとけば良いよね?」


「そうじゃのう」


「あ、ちゃんとオーパ爺とエンケリンちゃんは入れる様にしとくからね。後は何か手伝う事ある?」


「ふむ? いや、後は儂だけで十分じゃ」


「そう、じゃあ私エンケリンちゃんのお手伝いしてくるね」


「頼むのう」


 オーパ爺の返事を聞いて私は検証に使った諸々を元に戻し馬車の結界を張り直した。


 そうしてエンケリンちゃんが走って行った方に向かう。


 すると直ぐに、うまやとおもしき建物の中にシュトゥーテとエンケリンちゃんがいるのが見えたので声を掛ける。


「エンケリンちゃん何か手伝う事ある?」


「あ! リーベスお姉ちゃん! あれ? おじいちゃんのお手伝いもう終わったの?」


 ぱっ、と笑顔で振り向くエンケリンちゃん。可愛い。そして、あれ? って顔でそう続けた。これまた可愛い。次いで、それに答える私。


「うん。後はオーパ爺だけで大丈夫だって」


「わあ、すごいね! いつもわたしがお手伝いしてもすっごく時間がかかるのに」


 その曇りの無い驚きと称賛の声に、さっきの無様な姿を見せずに本当に良かったと、改めて思った。


 そしてまた思う。そりゃそうだろうねと。老人と幼女だけじゃ、馬車から商品を家に運び込む何て力仕事は大変だった事だろう。


「これで少しは役に立てたかな」


「少しじゃないよ! いっぱいだよ!」


 声を大にして言うエンケリンちゃん。ええ子や。


 私としては軽く結界張っただけ何だけども。


「そっか、そうなら嬉しいよ」


「うん!」


 そう言った私に、本当に嬉しそうに応えてくれるエンケリンちゃん。守りたいこの笑顔。……よし!


「私、オーパ爺に用事が出来たから行ってくる」


 そうエンケリンちゃんに告げる私。


「うん。いってらっしゃい」


 笑顔で送り出してくれるエンケリンちゃん。ううう、離れたくないが仕方無い、私にはやらねばならぬ事がある!

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