第17話 同棲先

 馬車で街の中を進むこと暫らくして、馬車が止まる。


「着いたぞい」


 オーパ爺のその声と共にエンケリンちゃんが馬車から飛び降りる。


「リーベスお姉ちゃん! 早く! こっち!」


 エンケリンちゃんがテンション高く私を呼ぶ。


「えっと……」


 オーパ爺を見る私。


「ふぅ、行ってやっとくれ」


「うん」


 オーパ爺が諦めたような声音で言った言葉に返事をして、エンケリンちゃんのもとに向かう。


「お待たせ」


「もう! 遅いよ! リーベスお姉ちゃん! 早く! こっち!」


 声を掛けた私に変わらぬテンションでまくし立てるエンケリンちゃん。更には私の手を取って!? 引っ張って行く。


「あわわわわ」


 早くもお触りタイムが!? エンケリンちゃんのちっちゃな手が私の手をぎゅって握ってるよ~なんと言う至福……ああ、これは――


「あ、ちょっと待っててね……」


 ああ……エンケリンちゃんの手が離れてしまった……。

 エンケリンちゃんは家の鍵を開けてるみたい。


「よし! ようこそリーベスお姉ちゃん!」


 そう言って満面の笑みで家の扉を開けるエンケリンちゃん……可愛い過ぎるでしょう……何がエンケリンちゃんをここまでテンションを上げさせているのだろう? ……私か? 私なのか? 私なんかの存在がエンケ――


「リーベスお姉ちゃん?」


 いぶかたずねてくるエンケリンちゃん。


 はっ! いかん! つい思考にまって固まっていた! 直ぐ様稼働せねば!


「お、お邪魔します!」


「うん! いらっしゃいませ!」


 そう言って私を家に招き入れるエンケリンちゃん。やばい……幼女が接客してくれるお店とか最高じゃないのか? 異世界物だと結構そう言うの有るよね? 探そう。


「リーベスお姉ちゃん! こっち! こっち!」


 おおっ、エンケリンちゃんが呼んでいる! 早く行かねば!


 扉をくぐると、そこは早くもリビング……いや奥にキッチン的な物が見えるから、リビング兼ダイニングキッチンかな?

 テーブル一つに椅子が四脚。後は食器棚(扉はなくて開放式のやつに)、謎の木箱と薪? かなあれは。

 そして右側の壁の奥と正面の壁の左側に扉が一つづつあり、左右の壁の真中辺りに窓がある。

 壁は石造りで床は板張りだね。


「リーベスお姉ちゃん! こっちだよ! こっち!」


 一頻ひとしきり部屋を眺めていたら、正面左の扉を開けながらエンケリンちゃんが私を呼んでいた。


「はーい」


 と、返事をしながらエンケリンちゃんの方に近寄って行くと、エンケリンちゃんは手招きしながら、こっちこっちと扉の奥に進んで行くので、それを追い掛けて私も扉の奥に進む。


 扉の奥は廊下になっており、右側に扉が三つある。その中の2番目、真ん中の扉の前にエンケリンちゃんがいる。


「ここがわたしのお部屋だよ!」


 そう言ってエンケリンちゃんはその扉を開ける。


 えっ!? エンケリンちゃんの部屋に入っちゃって良いんですか!? いやいや流石に廊下から覗くだけでしょう。


「ほら! リーベスお姉ちゃん! 早く入って!」


 そう言うとエンケリンちゃんは私の背中を押して、エンケリンちゃんの部屋に押し込んでいく。


「わわわ」


 えっ!? まじで!? 入っちゃって良いの? ひゃっほーい!


 こ、これがエンケリンちゃんのお部屋……。


 ダブルサイズ? のベッドに、明らかにエンケリンちゃんに合ってないサイズの大人用とおもしき机に椅子、そして安定の木箱、壁には窓が一つ。


 今すぐベッドにダイブしてくんかくんかしたい衝動を抑えて考察……。


 いくら商人の孫娘だからってダブルベッド? だったら机と椅子もエンケリンちゃんに合わせたサイズにするんじゃ?


 以上の事から両親と一緒の部屋って考えるのが妥当だよね? でも、今までエンケリンちゃんの両親の話はオーパ爺が顔向け出来ん、って言った事だけ……やっぱりそう言う事なのかなぁ……。


「綺麗にしてるね」


「えへへ、でしょ? おじいちゃんに言われないように、ちゃんときれいにしてるんだよ!」


胸を張って答えるエンケリンちゃん……可愛い……。


「えらいねぇ」


何とか萌えに飲み込まれずに話す私。


「にへへ……あっ! 忘れるところだった。今日からここはわたしとリーベスお姉ちゃんのお部屋だよ!」


 …………。


「…………は?」


「もう、だから今日からここは、わたしとリーベスお姉ちゃんのお部屋だよ!」


 …………いやいやいや、私いつの間にか寝ちゃった? 夢でしょこれ。願望入り過ぎ…………夢じゃ、無い?


「……え? ほんとに? 嘘でした~とか言われたら泣いちゃうよ?」


「私そんな嘘つかないよ!」


「え? じゃあ本当に一緒の部屋に住むの?」


「もう、さっきからそう言ってるよ? なんでそんなに信じないの?」


 苦笑いするエンケリンちゃん。


「!」


 私は何をしていた? エンケリンちゃんの言葉を信じず、疑っていた? あり得ない、何て愚かな行為をしていたんだ。それでもしエンケリンちゃんを悲しませていたら万死に値する! 今回は運が良かった……猛省せよ!


「ご、ごめんねエンケリンちゃん。あまりの嬉しさに私混乱していたみたい」


「嬉しい? 一緒の部屋でも?」


「一緒の部屋なのが嬉しいです!」


「えへへ、私も嬉しい」


 勝った。

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