第16話 入街

 ふぅ、危うく○意の波動に目覚めてしまう所だったよ。


 えっと、もう街に入る所まで来てるんだっけ?

 幌の隙間から前を覗くと……うん、確かに壁っぽいのが在るね。それにもうすぐ順番も来そうだね。


 って、私街に入る際のお作法聞いて無いんだけど?


「オーパ爺、私どうしてたら良いの?」


「んむ? おお、そうじゃったな。お前さんはそのままで構わんよ。衛兵が中を確認するじゃろうから、そのつもりでおってくれ」


「分かったよ」


 オーパ爺忘れてた? いや、なにも言わずにいて、私の反応を見ようとしてたような気がする。まぁいいや。


「お、爺さんにエンケリンか無事に帰って来たな」


 誰かがオーパ爺とエンケリンちゃんに話掛けてる。順番が来たのかな?


「何とかのう」

「うん!」


 それに答えるオーパ爺とエンケリンちゃん。


「よし、確認した。ん? そう言えば護衛の二人はどうしたんだ? 中か?」


「いや、あの二人は魔物にやられてしもうた」


 はい。むしゃむしゃされてました。


「なにっ! あいつらならそこそこやれただろう。何にやられたんだ?」


「獣型が10匹位だったかのう。それに一気に囲まれてしまって……どうしようもなかったのう……」


「なっ、そうか……よく爺さん達、無事に帰って来れたな。それでその場所はどの辺だ。その数だと討伐隊が編成されるだろうからな」


「そうじゃのう……ドライドーフへの道を半日と少し行った辺りかのう。ただ、魔物はもうおらんよ。全て討伐されたからのう」


 はい。焼き尽くしました。


「なんだって!? 魔討者のくみでも通りかかったのか?」


「いや、通りすがりの嬢ちゃんに助けられたんじゃ」


 そう、私で——


「嬢ちゃん? それじゃあその嬢ちゃんが獣型の魔物を10匹も一人で倒したってのか?」


「そう言う事になるのう」


「何者だよ。その嬢ちゃん……」


 チートな異世界転生者ですね。


「只者ではないじゃろうなぁ。まぁそのくだんの嬢ちゃんに護衛をしてもらって来たと言う訳じゃ」


 ほとんど寝てましたけどね?


「護衛を? いや、そうだな。確かにそれで良かったんだろうな」


「ただ訳有りみたいでのう。登録証を持って無いそうじゃ」


 転生したてなもので……。


「登録証を持って無いって?……爺さん大丈夫なのかそれ」


「悪いむすめには見えんかったからのう。まぁ大丈夫じゃろうて。あぁそろそろいいかのう、後もつかえてるじゃろうし」


「ああ、そうだな。それじゃあ中を確認させてもらうぞ」


「あまり驚かんでやってくれんかのう」


 そこで会話が終わった。オーパ爺の最後の言葉は何だろう? こっちに言ったのかな? 話しているのを聞く限り、相手は特に特徴の無いモブって感じだと思ったけど、何か驚く要素があるのかな? まぁいいか、今度はこっちに見に来るみたいだね。


「開けるぞ」


 馬車の荷台の後ろからそんな声が聞こえて来た。

 閉じ合わせた布を開ける前に声を掛けて来るなんて以外に紳士的だね。


「はーい」


 一応返事をしておく私。


 数瞬後、布をまくってこっちを覗いてくるにーちゃんと目があった。

 モブと言うにはいささか整った顔のにーちゃんだが驚くほどではないね。って言うかあっちがかなりのびっくり顔なんですが……うぐぐ……笑っちゃいそうなのでやめて欲しい。


 何かそのまま固まってるので手を振ってみると、はっとした顔をして直ぐ様布を閉めた、と共に馬車の前方に走っていく音が聞こえる。


「おい! 爺さん! あれほんとに大丈夫なのか!?」


 あれって、ちょっと失礼じゃない?


「そんな大声出さんでも聞こえとる」


「いやあれ……んん、かなりやばそうだったぞ。可愛い孫娘も居るんだから、 あまり関り合いにならない方がいいんじゃないか?」


 初対面の人にやばそうって思われてるんだけど……。


「まぁなるようになるじゃろう」


「いやそんな軽く……」


「ほれ、銀貨5枚じゃ。手続きが終わったのなら行ってもいいかのう。後ろも支えとるじゃろう?」


「ああ確かに、でもほんとに気を付けろよ」


「忠告は有り難く頂いておくぞい」


 オーパ爺がそう言うと馬車が動き始めた。

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