第8話 馬車快適魔法
「馬車を快適にする魔法?」
頭に『?』を浮かべた顔で聞いてくるエンケリンちゃん。
さっきのぷっくり頬顔も可愛かったけど、この顔も可愛い! 私の理性を破壊しにきてるね!
「……えっとね。お尻が痛くならない魔法なんだけど……」
馬車が平気なエンケリンちゃんには関係な——
「えっ! すごい! そんな魔法あるの!」
——いよねって、あれ? 凄い食い付き。
「あれ? エンケリンちゃん馬車は平気なんじゃ」
「我慢できるのと、痛くなくていいのは別問題だよ!」
な、成る程。確かにそりゃそうだ。
「ずるい! リーベスお姉ちゃんひとりだけ!」
そう言って、エンケリンちゃんはまたぷっくり頬顔を披露。
「えっ!? いやいや! 今さっき考えたって言ったよ!?」
萌えてる場合じゃない! こんな誤解でエンケリンちゃんに嫌われる訳にはいかないよ!
「そうだっけ? じゃあ、わたしもお尻痛くなくなる?」
こくこく頷く私。すると、途端に輝く笑顔になるエンケリンちゃん。ほっと一安心。それにしてもころころ表情変わるなぁ。
「すごい! すごい! それってすぐ出来るの!?」
やたらとテンションが高い! 平気だって言ってたけど、やっぱりそれだけ辛かったのかな。
「うん。直ぐに出来るよ。やってみる?」
「うん! うん! やる!」
更に興奮するエンケリンちゃん! うわぁ……頬が上気するってやつだよね? これ、やばすぎる……。でも、こんなに赤くなっちゃって倒れたりしない?
「こりゃエンケリン。少し落ち着かんか」
そこでオーパ爺がエンケリンちゃんを
「ええー! だってお尻が痛くならないんだよ!」
そこ、かなり重要そうですね。
「それは凄い事じゃが……先ずは儂に掛けてくれんか?」
「ええー! おじいちゃんずるい! わたしが先に言ったのに!」
そして
「まぁそう
そう言ってオーパ爺はエンケリンちゃんを
「出来るけど」
そうオーパ爺に答えつつエンケリンちゃんを見ると、明らかに不満顔だ。
「お前さんの事は信用しておるし、その魔法も何の問題も無いかもしれん。だがまだ誰にも使った事は無いんじゃろう?」
頷く私。
「万が一この子に何かあったら、この子の両親に顔向け出来んからの」
そう言ってエンケリンちゃんの頭を撫でるオーパ爺。
それでもまだエンケリンは不満顔だけど、自分が先! とは言わない。
「じゃあオーパ爺が先で」
と私が言うと、
「ううー、でもやっぱりずるい……」
頭では分かってても、そこはしょうがないか。
「オーパ爺が終わったら直ぐに掛けるから、ね?」
「ううー、絶対だよ! 約束だよ!」
勿論、とエンケリンちゃんに答えてオーパ爺に向かう。
「それじゃあいきますね」
「おう、やっとくれ」
私の言葉にそう答えるオーパ爺。特に気負う事なく、リラックスしている。これが年の功ってやつか……いや違ったかな。
まぁやりますか。えーと、さっきのイメージで……
「浮上!」
「ほおっ!」
私の掛け声と共に、魔法が発動。オーパ爺が
「おおっ、これは凄いのう。全く振動を感じんぞ。不思議な感覚じゃのう」
おおっとか、これはとか、何やら呟きながら魔法の感触を確かめているオーパ爺。
「ううー! おじいちゃん! もういいよね! リーベスお姉ちゃん私にも!」
そう言って催促してくるエンケリンちゃん。一応オーパ爺を見る私。
「おおっ、すまんかったのエンケリン。これなら問題ないじゃろう」
そう言ってエンケリンちゃんに謝るオーパ爺。
「はやく! はやく! リーベスお姉ちゃん!?」
もう待ち切れないって感じで私に再び催促するエンケリンちゃん。
「分かったから、直ぐに掛けるから。少し落ち着いて、ちゃんと
そう言ってエンケリンちゃんを宥める私。
「うん!」
そう元気に返事をして、エンケリンちゃんが定位置に座る。でも、そわそわは抑え切れないようだ。まぁそれは仕方ないか。
「それじゃあいくよ」
「うん!」
さっきと同じ要領で……
「浮上!」
「ふわぁ!」
驚きの歓声を上げるエンケリンちゃん。次いで、
「わあ! すごい! すごい!」
と、ぴよんぴよん跳ね出すエンケリンちゃん……え?
「わあぁ、エンケリンちゃん危な……く無さそうだね」
エンケリンちゃんがぴよんぴよん跳ねても、魔法の効果によってちゃんと固定位置に戻される。おおっ、我ながら見事な拘束性能……ん?
「わぁおもしろ~い。……あれ? でもリーベスお姉ちゃんの所に行けないよ?」
暫くぴよんぴよん跳ねていたエンケリンちゃんがそんなこと言った。
うーんっ、と言いながらこちらに近付こうとするも戻されるって事を繰り返してる。何この可愛い
「おお、そうじゃ。この魔法はどれくらいで効果が切れるのかの」
そんな事をオーパ爺が言った。
効果時間? そんなものを私は設定していない。っという事は私が解除するまで効果は永続?
新たな軟禁式拘束魔法が完成した瞬間だった。
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