第7話 馬車初体験
「あっ! リーベスお姉ちゃんもうシュトゥーテと仲良くなってる!」
そう言って駆けてくるエンケリンちゃん。
「シュトゥーテ、わたしと仲良くなるの時間かかったのに……」
そう言うとちょっと
「そうなの?」
小声でシュトゥーテに聞くと、
「ブヒヒン(小さい子ならなおの事、わたしに踏まれたら大怪我よ)」
確かに、大人でも大怪我になりかねないのに、小さい子なら
「エンケリンちゃん、シュトゥーテはエンケリンちゃんの事が大好きだったから始めのうちは近づかせなかったんだと思うよ」
出来るだけ優しくエンケリンちゃんにそう話しかける。
「……どうして?」
まだ拗ねた感じで聞いてくるエンケリンちゃん。
「それはね。まだ小さかったエンケリンちゃんはシュトゥーテがどういう風にしたらどう動くかとか知らなかったと思うんだ」
「……うん」
「そうすると、ちょっと間違ったらシュトゥーテに踏まれて大怪我したかもしれない。大好きなエンケリンちゃんがそんなことになったらシュトゥーテはとっても悲しかったと思うんだ」
「……うん」
「だから、大きくなってシュトゥーテの事をいっぱい知った時に、撫でさせてくれたり色々させて貰えるようになったんじゃない?」
「……うん!」
そう言うとエンケリンちゃんの顔が輝く様な笑顔に……。
「シュトゥーテありがとう! 大好きだよ!」
そう言ってシュトゥーテに抱き着くエンケリンちゃん。
何て言ってるって感じで私を見てくるシュトゥーテ。
「大好きだって」
そう言ってあげる私。
「ブヒン(わたしも大好きよ)」
相思相愛ですね。まったく。眼福眼福。
「おおい! 二人ともそろそろ出発するぞ」
そんな至福の時を邪魔する爺——げふんげふん、オーパ爺がそう声を掛けてきた。
「はーい!」
と元気よく返事をして
「私もいいの?」
そう馭者席に座るオーパ爺に聞く。
「
成程確かにそうだ。元護衛だった二人はむしゃむしゃされちゃった上に、私に消し炭も残さず消滅させられたからね。だから新たな護衛が必要、という事だ。
黙ってそんな事を考えていたら、
「え? リーベスお姉ちゃん一緒に行かないの?」
さっき迄にこにこだったエンケリンちゃんの顔が途端に曇っていく。
「い、行くよ! 一緒に! でもちょっと馬車代とか持ち合わせが無くって……」
そんな言い訳を早口で言うと、
「馬車代なんて貰えるかい! こっちは命を助けられた上、護衛迄してもらおうって言うんじゃ! 逆にこちらがいくら払っても足りないくらいじゃ! さっさと乗らんか!」
そうオーパ爺に一喝され、早く乗れと言われる私。
「そ、それじゃ失礼して……」
いそいそと荷台の方に乗り込む私。
「もう、リーベスお姉ちゃんは何回もびっくりさせるんだから」
そう呆れたような声で言うエンケリンちゃん。
「ご、ごめんね。エンケリンちゃん」
情けなくもそう謝る私でした。
え? 馬車ってこんなに辛いの? え? 何で二人は平気なの? え? 慣れてるから? え? もう無理なんだけど……。
いくらも進まないうちに早々に音を上げる私。いやほんと何で二人は平気なの?
常にガタガタガタガタガッタンガッタンしてるんだよ? こんなの人の乗るものじゃないよ? え? 私が軟弱なだけ? とにかくもう無理!
取り敢えず浮きます! 荷台の床から五センチ程浮くと、次の瞬間背中が荷物の箱に押される。一瞬だけガタガタから解放されたものの、今度は背中からガタガタ。どゆこと?……あっ、自分だけその場で浮くと、馬車が進むにつれて取り残される。そして荷物に引っ掛かって持っていかれてるけど背中からガタガタすると!
じゃあ座ってる床から5センチ浮上で相対位置を固定すればオッケーでしょ! ……駄目でした~。
完全に馬車に合わせて上下する。お尻が痛くは無いけど空中で振動と上下運動がくる。
むむむ、それじゃあ厳密位置固定化じゃなく、接触しない範囲での追随を遅延化して緩やかに定位置に戻る様に設定……。
よし! ほぼ振動は無し、時々跳ね上げられるけど変化が緩やかになったから相当酷い事が無ければ大丈夫でしょう。これで快適に過ごせるよ。
「…………えちゃん! リーベスお姉ちゃん!」
「ひゃい!?」
突然名前を至近距離で言われて、思わず変な声が出た。
「え、エンケリンちゃん? どうしたの突然」
びっくりしてどきどきしている所に、更に間近にエンケリンちゃんの顔で更に
「突然って……リーベスお姉ちゃんさっきから呼んでるのに全然聞いてないんだもん!」
そう言って頬をぷくっと膨らませてぷんぷんしてるエンケリンちゃん……可愛過ぎる!
「…………ご、ごめんね。馬車を快適にする魔法を考えてたら集中し過ぎてたみたい」
何とか溢れ出しそうな心臓と愛情を抑え込んでそう答えた。
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