第6話 初異世界馬

 まぁそんな事で死ぬ訳なんですがね。


 あの後、本気で心配させてしまった幼女ちゃんの為にも、なんとかかんとか落ち着かせて互いの自己紹介に。


「エンケリンだよ!」


 元気いっぱいにそう言う幼女ちゃん、改めエンケリンちゃん。


「儂はオーパ、この子の祖父じゃ」


 と、皺くちゃ顔改めオーパ爺。


「えっと、私はリーベス・く——げふん、げふん」


「ん゛、ん゛、リーベスです」


 ふ~危ない危ない。この世界、姓は貴族とかお偉いさんしか持ってないんだっけ。


「助けて貰った儂が言うのもなんじゃが、お前さん体は本当に大丈夫なのか」


 オーパ爺がそう聞いてくると、


「リーベスお姉ちゃん?」


 エンケリンちゃんも心配そうに声を出す。


「えっと、まぁ持病……ではあるんですが、命に係わるものではないので……」


 まぁ一種の病気だからね。間違ってはいないでしょ。実際死にはしない……よね?


 未だ心配そうにこちらを見ているエンケリンちゃん。


「ほ、ほら、もうちゃんと元気でしょ」


 拳を握って両手で力こぶポーズを決める。むん!


「よかった~」


 三度みたびのほにゃん笑顔に思わず再びくずおれそうになるも何とか耐える! もうこれ以上エンケリンちゃんに心配を掛ける訳にはいかん!


 そうやって何とか耐えていると、


「あっ! シュトゥーテ!」


 そう言うや否や飛び跳ねる様に馬車の前側に走って行くエンケリンちゃん。


「すまんのう。落ち着きのない子で」


 ちょっと嬉しそうな声音こわねでそう言うオーパ爺。


「いえ、あんな事になってたのに元気いっぱいで良いと思いますよ」


 本当に、怯えて不安にさいなまれていてもおかしくないのに、あんなに元気なのはいい事だ。


「それじゃあ儂も荷台の方の状態を確認してくるかの」


 そう言って馬車に向かうオーパ爺。


「あ、じゃあ私はエンケリンちゃんを見て来ます」


 私もそう言って馬車の前側に向かおうとする。


「それじゃあ頼まれてくれるかの」


「はい」


 そうオーパ爺に答えてエンケリンちゃんの元に向かう私。




 そうして向かった先には馬と戯れる幼女という光景が……。

 何とかうずくまらずに、目を閉じ、天を仰ぎ、耐える私。この世界に来て良かった。


 と言うか、馬無事だったんだ。そういや居たような気もする。でもあの状況見上げる程の壁で周囲を囲まれて更に壁が消える中いななき一つ上げなかったの……豪胆だね。


 何とか平常を装ってエンケリンちゃんに声を掛ける。


「エンケリンちゃん」


「あ、リーベスお姉ちゃん!」


 そう言って駆け寄ってくるエンケリンちゃん。ほんとに元気いっぱいだ。


「イケメンなお馬さんだね」


 馬を見ながらそう言う私。


「ブヒヒン(誰が牡よ失礼しちゃうわ)」


 ん? エンケリンちゃん?


「リーベスお姉ちゃん。シュトゥーテは女の子だよ」


 そう言って私の発言を訂正してくれるエンケリンちゃん。


「あ、そうなんだ。それは失礼しました」


「ブヒン(まったくだわ)」


 んん??


「リーベスお姉ちゃんシュトゥーテはとってもいい子なんだよ!」


 そう言ってシュトゥーテを撫でるエンケリンちゃん。


「ブブヒン……(本当にこの子はいい子なんだから……)」


 …………。


「確かに」


 思わずそう零す私。


「だよね!」

「ブヒン!(そうでしょう!)」


 同時にそう返される。


「あ、おじいちゃんにシュトゥーテ元気だよって言ってくる!」


 そう言うと荷台の方に向かうエンケリンちゃん。残される一人と一頭。


「ブブブ……(私ったら人の牝相手に何してるのかしら……)」


 …………。


「あのぉ、つかぬ事をお伺いしますが……私の言葉通じてます? シュトゥーテさん?」


 馬鹿な事を、と思いつつもシュトゥーテに話しかける私。


「ブヒ……(何を言って……)」


 そこまで言って目を見開くシュトゥーテさん。うぉっ!初めて見る顔! 馬ってびっくりするとこんな顔になるの!?


「やっぱり通じてそうですね。私の言葉。」


「ブヒヒン(あなた何言ってるの)」


「私もシュトゥーテさんの言葉分かってる感じです。あ、申し遅れました私リーベスです。エンケリンちゃんのお、お、お……命の恩人です」


 そう言って自己紹介する私。……この説明なら間違ってないでしょ。


「ブヒヒンブヒヒヒンブヒン……(どういうことか分からないけれど、あなたとは会話が出来るようね。あの子を助けてくれたようで感謝するわ。あの子はとてもいい子だから……)」


「ブヒヒンブヒヒ……ブヒン(あの子だけなら乗せて逃げれたかもしれないけど、流石にあの数は分が悪かったわ……礼を言うわ、ありがとう)」


 一瞬驚いた様だけど直ぐに平静を取り戻して普通に話してる……やはり豪胆だ。


「私がしたい事をしただけだからお礼は別にいいよ。この後お世話になるかもだし。」


 私がそう返すと、


「ブヒヒンブブブヒヒン(そう、でも結果的にでもわたしの恩人でもあるのだから、受け取っておきなさい。嫌な事ではないでしょう?)」


 そう言われると悪い気はしない。


「分かったよ。ありがとう」


「ブヒヒン(お礼はわたしがしたのだけど……変な子ね)」


「まぁ馬と話せるほどにはね」


「ブヒン(まったくね)」


 そうして二人一人と一頭で笑いあった。

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