第5話 第一幼女発見

 まぁ、やってしまったものはしょうがない。埋葬の手間がはぶけたと思おう。遺品が何一つ無いっていうのが申し訳無いが致し方無し。


 って、早く壁消して馬車を解放してあげないと……あんな高い壁に囲われてたら中真っ暗なんじゃ……って、別の意味で幼女を怖がらせてるんじゃない!?


「壁よ消えろ」


 すると、みるみるうちに壁が下がっていく。最後には何もなかったような地面が見えるだけだ。


「おおっ凄い……」


 壁が消えた地面を見ながら感嘆していると、


「お姉ちゃん誰?」


 そんな誰何すいかの声がどこからか……って目の前の馬車なんですけどね?


 荷台部分に幌がかかってるタイプの馬車の後ろ側、左右の布で閉じ合わされた所の間から、顔だけひょっこり出してる幼女がいた!?


「……そ~きゅ~と」


 思わず言葉が零れる。


「え? えへへ、そうかなお姉ちゃんもかわいいよ?」


 始めびっくりしたように目をまん丸にしたと思ったら、次にははにかんだ笑顔でそんなこと言う幼女!? も、萌え死ぬ……。


 思わず胸を押さえてうずくまる私。


「お姉ちゃん!?」


 幼女の心配するような声が聴こえる。何て良い子なの!? 

 それに私の事を『かわいい』だって!? そんな事家族にしか言われたことないよ!? 幼女の言葉に興奮する私。


 ん? でも私『そ~きゅ~と』って言ったよね? え? 通じたの?


「こりゃエンケリンまだ出ちゃいかん!」


「ぴゃ!」


 そんな声と共に中に引っ込む幼女!? こりゃ私を殺しに来てるぞ……。


「大丈夫だよおじいちゃん。魔物居なかった」


「本当か? あの二人で倒せたのか?」


「かわいいお姉ちゃんしか居なかった。えへへ」


「可愛いお姉ちゃん? 儂が安全か確認するから中に居るんじゃぞ」


 そんな会話が馬車の中から聞こえて来た。またかわいいって言われちゃた! うへへ。

 馬車の中の反応は二人。さっきの幼女ちゃんとおじいちゃん? なのかな。


 そして、今度は皺くちゃ顔がにゅっと出て来る……可愛く無い!


「っ!」


 私を見た途端、その目は驚愕に見開かれる。


「お、お前さんは……」


「えっと……」


 何と返そうか迷っていると……


「っ、魔物は!? あの二人は!?」


 皺くちゃ顔は、はっとして辺りを見回す。


「あ、魔物は倒しました。多分言ってる二人はその……」


 そう言って私は言葉を濁す。


「おおっそうか! ……そうか、あの二人は駄目じゃったか」


 皺くちゃ顔は一瞬喜んで、直ぐに沈んだ。


「私が来た時にはもう……」


 私がそう申し訳なさげに言うと、


「残念じゃが、お前さんがそう気に病むことじゃないわい。魔物を倒してくれて感謝しておる。お前さんが来なければ儂も孫諸共、じゃったろうからの」


 皺くちゃ顔にそう言われて嬉しくなる。やっぱりこう言う言葉って嬉しいものだよね。


「おじいちゃん! もういい!」


 そんな声と共にひょこっと幼女が皺くちゃ顔の下から顔を出す!


「うぐっ……」


 再び胸を押さえて蹲る私。


「お姉ちゃん!? また!?」

「お前さん!? また?」


 そう言って馬車を飛び出してくる幼女。


「あっ! こりゃエンケリン!」


 そんな皺くちゃ顔の声も聞こえた気がした。


「お姉ちゃん大丈夫? お胸痛いの?」


 そう言って蹲る私の顔を覗き込んでくる幼女!

 その瞳は正に碧目! 澄んだエメラルドグリーン! しかもちょっと潤んでる!? 本物ってこんなに綺麗なの!? あんだけ持てはやされてたのが初めて分かった!

 そして、睫毛も眉毛も金色!? うっへ~こんななんだ~すっげ~。そして、その金色眉が八の字に下がっている困り眉状態に!?


「うぐぉ……」


 間近でそんなものを見せられて平気なはずがない!


「お、お姉ちゃん!?」


 ま、不味いこれ以上幼女に心配を掛けては……。

 幼女の顔の前に掌を翳す、ちょっと待ってポーズを決めながら深呼吸をして心を落ち着かせる……すーはー、すーはー…………。


「も、もう大丈夫だよ」


 何とか自分を落ち着かせてそう答える私。


「よかった~」


 そう言って心底安心したように、ほにゃんと笑う幼女! しかも目の端にちょっと涙が!!!


「おふぅ……」


 くずおれる私。


「お姉ちゃん!?」


 再び幼女が悲鳴の様な声を上げる。


 ごめんね幼女ちゃん。私もう死んじゃいそう。転生初日だったんだけどな。短い転生人生だったな……。

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