第58話

「あとはあんたらの仕事だ」

「そうね任せてもらおうかしら、カリンお願いね」

「はい」

「ナタリーは引き渡しの準備を」

「ええ」

「では、参りましょうか」

「ちょいまちな」

「まだなにか?」

アリスあんたはタチバナあいつの所に行ったほうがいいんじゃねぇのか?」

「………そうですね、わかりました。フィーネかわりにモネとルイをこちらにまわします」

「ええ、わかったわ」

「タチバナさんどうかなさったんですか?」

「別にどうってことないわ、いくわよカリン」

「え?でも!えぇ…わかりました」


……殺めたのはタチバナ様でしたか……。


「私たちはフィーネ様より呼ばれましたのでお任せいたします」

「タチバナ様は今なにを?」

「お着換えになられティーをお飲みになられておいでです」

「そうですか」


さて、すこし様子をみさせていただきましょうか。


「ふぅ~…まいったなぁ…俺…人を殺しっちゃったよ…うっ!」


はぁ~…やはりご自身の手で殺めたのは初めてですしかたありません。


「うっぷ!オロロロロロロ…はぁはぁ…守るって決めたのに…情けないな…うぷっ」

「…………………」

「ただでさえ皆に迷惑かけちゃってるのに…うっぷ…モ、モネちゃんとルイちゃんが戻る前に…落ちつかなきゃ…敵もまた襲ってくるかもしれないし…うっぷ……はぁはぁ…」

「…………………」

「はぁはぁ…え?」

「………大丈夫ですか?」

「え?あ、ああ!ちょっとまだ昼間のダメージがあったみたいで!も、もう大丈夫ですから!すみません!!」

「そうですか、とりあえずお口を押す過ぎになられお着換えを」

「え?あ、ああ…よごしまくっちゃったか…」

「しかたございません、こちらへ」

「え?は、はい……」

「こちらをお召しになられてください」

「ありがとうございます……」

「お座りを」

「は、はい…」


ベッドに座るように言われたからすわったけど…アリスさん隣に座ってどうするつもりなんだろ…。


「随分おつかれのようですね」

「え?ああ、要領がわるくて仕事に時間がかかっちゃいましたからねぇ」

「そうですか、お休みになれるときにはなさったほうがよろしいかと思いますよ?」

「ははは…そうですね…いっ!?アリスさん!?」

「お静かに…目を閉じて聞いてください」

「は、はい……」


なんで!?急に膝枕とか緊張して死にそうだ!


「そのように身構えなくても大丈夫です…」

「は、はい…」

「タチバナ様、異世界こちらの世界はタチバナ様がいらっしゃる世界よりはるかに人の命がかるく扱われています」

「…………………」

「ですが人を殺めることはどのような場合でも決して褒められるものではありません」

「…………はい」

「しかし…やらねばならない時にしっかりやらねば…ほかの不幸を増やすことにつながってしまいます」

「…………はい」

「今回タチバナ様は奪うつらさを体験なさりました」

「…………………」

「次は……救った命の数をご実感できるようがんばってみましょう」

「は、はい……うぅ…」


真っ青な顔で震えがとまらないほどショックを受けてなお、他の者のことを優先し考えれるあなただからこそ……ここでとまらず……救えるものを救ってほしい…この世界に強制的に縛り付け酷なことを強いている私が……一番罪を背負わねばならないのですがそう願わずにはいられません。


「……眠ってしまわれましたか…あなたは…負けずに…死なないで」


涙のあとがついたまま穏やかに眠っていらっしゃいますね……目が覚めたらいつものあなたでいてほしい……。


「タチバナ様、お目覚めのお時間です」

「ふがっ!?あ、あれ!?アリスさんは?」

「タチバナ様がお眠りになられたとあのあと私たちに合流なさっておりました」

「そ、そうですか……」


情けない所をみせまくってしまったなぁ…。


「おはようございます」

「おはようございます!」

「エミリー様、ゆっくりおやすみになられましたか?」

「はい!テト、ロキ、ルフ、レイみんなが一緒にねてくれましたので!!最高の夜でした!!」

「あははは!よかったですねぇ」

「はいっ!」

「みんなもありがとう」

「にゃぁ~」


お顔も整い、多少無理はなさっているようですが大丈夫そうです。


「今回はタチバナが持ち直したから特別にゆるしておくわ」

「なんのことでしょう」

「今更しらばっくれないでくれる?」

「本来なら主治医の私の役目でしたが…アリスですからね、許してあげます」

「私が護衛にまわってるからって…まぁ今回はゆるしてあげるわ!」


昨日の賊から情報を聞き出すために合流してからずっと不機嫌でしたがよくわかりません。


「タチバナ様…私また…」

「カミューさん、おはようございます。もう体調は大丈夫ですか?」

「え?は、はい…それでそうのぉ…」

「よかった、カミューさんががんばって完成させてくれた馬車のおかげで皆快適に旅が出てきますよ、ありがとうございます」

「い、いえ!こちらこそよろこんでいただけてよかったです!」

「おら、そろそろ出発すんぞ!」


今日も宿泊予定の街まで馬車での移動がはじまりました…カミューはもう大丈夫そうでアンリとともにエミリー様におつきになられています。


「Zzzzzz…」

「カリン様、このようにお眠りになりつづけて問題はないのですか?」

「寝すぎでだるいということはあるかもしれませんが、心的疲労もあるのでまだお休みさせてあげたほうがいいと思います」

「そうですか…」


昨日、私が合流した後からモネもルイもタチバナ様から片時も離れなくなりました。


「おかわいそうに…お目覚めなさったら私が癒してさしあげなきゃ」

「ナタリー様、私たちがついているのでご安心を」

「本当のところをいうと嘔吐を繰り返してましたので一度しっかり喉と胸の様子を診察したいんですけどねぇ」

「カリン様、私たちが体調を常に気にかけておりますので変化がありましたらご報告致します」

「私はそろそろタチバナと入浴を一緒にしたいのよね」

「…フィーネ様お戯れを…」


モネとルイが完全なるガードを発動しています…さすがのフィーネも苦笑しかできないようです。


「ふふふ、ごめんなさいね?まぁ今はゆっくり眠らせてあげなさい?本当の目覚めまでね」

「どういう意味ですか?」

「さぁ?ふふふふふふ」


本当の目覚めとは…意味深にわらうフィーネがきになりますが…フィーネのことですタチバナ様に悪いことがおこるというわけではないとおもっておきましょう。


「しっかしずっと寝っぱなしで大丈夫かよ」

「そうですよね、今日にいたってはまだ食事もなさってませんよね?」

「大丈夫よ、今はそっとしておきなさい」

「昨日フィーネに言われてお薬を飲ませてあるので栄養面では問題ありません」

「そうかい、あんたらが大丈夫だってんなら俺から何か言う必要はねぇ」

「姫がずっと気になさってますがね」

「テト達がいるんだほっとけ」

「タチバナ様心配です」

「レティー今不用意にタチバナに近づくと死ぬわよ?」

「え゛……」

「そうですね、ナタリーとあの二人が目覚めるまでお守りするといっていたので言葉の綾ではなく本当に死を覚悟しなければなりません」

「ひぃ…」

「アリス先輩、馬車に不具合はありませんでした」

「カミューご苦労様です、昼食をとってください」

「はい、それでタチバナ様は?」

「ナタリーと二人がついています」

「え…で、では近づかないほうがいいですね」

「それが賢明な判断ってやつね、アンリにもつたえておきなさい?」

「わ、わかりました」


ナタリーを抜けてもあの二人がいるので近づかないほうがいいでしょう…そもそもナタリーを抜くこと自体がかなりのリスクですが。


「ナダン!気をつけなさいよ?どこかにぶつけたり落としたりしないでね」

「わ、わかってるよ」

「はぁ~…こいつこの状況でも目が覚めねぇのかよ…」

「ふふふ、覚めたらおどろくわよ?」

「ああ?」

「もうすぐわかるわ」

「ナタリー」

「なに?」

「目覚めが近いわ、飲み物と食事を多めに用意しておいてあげるといいわ」

「わ、わかったわ」

「それと…目覚めるときはフィーネ、カリン、アリス私達を必ずよんでね?」

「かしこまりました」

「フィーネ、私はなにかごよういしておくものはありますか?」

「ないわ、アリスはタチバナの着替えを用意してあげて」

「フィーネ様、それは私たちが」

「ダメよ、これはアリスの役目なの…というよりアリスにしかできないとおもうわ」

「………………」

「わかりました」

「アンリ、レティー、カミューは姫様の部屋にいて」

「え?あの子たちがいるなら」

「多分今夜目覚めると思うの、そうなったらあの子たちもタチバナのもとにくるわ」

「私たちは行かなくていいの?」

「タチバナが目覚めるときは私達4人しか部屋に入れない、たぶんあなた達じゃいきなりだと耐えきれない」

「そ、そう…」


優雅に笑うフィーネの雰囲気と言葉で全員が真実だと思ったようです……目覚めとはなんなのか…あまりのことに動揺しているのかナダンがタチバナ様の頭を壁にぶつけています……。


「!?ルイ!」

「はい!」

「モネも!皆に知らせたら二人ともお食事の準備をして!」

「かしこまりました!」


モネとルイがタチバナ様が目覚めそうだと知らせにきたのでお部屋へ移動します…なぜかざわつきます……。


「来たわね?覚悟はいい?」

「こ、これは何が起ころうとしているんですか?」

「まぁ羽化にちかいわね」

「え!?」

「ナタリーだけでは厳しいと思うので入りましょう」


ドアの奥…室内からとてつもないプレッシャーを感じます…ナタリーは無事でしょうか…。


「にゃぁ~」

「あなた達もここでまっていて」


テト達もきましたがフィーネの言葉で困惑しながらもモネ達と部屋の外で待機することになりました、ちらっと見ると血相を変えたザイード達もいますが目が合うと頷いて周辺の警備にまわってくれました。


「くっ!ナ、ナタリー!無事ですかっ!」

「はぁはぁはぁはぁ…あたり…まえでしょ…」

「フィーネ」

「え、ええ…予想よりはるかに強いわ…やるわよ…」


フィーネがなにをやりたいのか私も含め理解しました…再びこれをやることになるとは思いませんでした…。


失敗できません!」

「当たり前でしょ!タチバナ様は命に懸けて私が守って見せるわ!」

「アリス!」

「…はい」

「いけるわね?」

「……はい」

「アリス、タチバナ様はあの人とは違います!」

「そうよ!絶対飲まれたりしないわ!あなたが信じてやらないでどうするのっ!」

「!!!!!!……ナタリー…感謝します…フィーネ!」

「ええ!行くわよ!目が覚めるわ!!!」


私たちはタチバナ様が眠るベッドの四方を囲み手をかざしタチバナ様の周りにフィーネを中心に4人できる術を発動させました。



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