第19話

「……………」

「……………………」


わなを仕掛けた翌朝、一つ目の罠を見に行くと牛のようなサイズのイノシシがかかっていて息絶えていた。一人じゃどうしようもないので他の罠を見て回り手伝いの人手をかりようとしたがもれなくすべての罠にいろいろな動物がかかって息絶えていた。


「テ、テト…一度アリスさんの所にもどろうか……」

「…………にゃ、にゃぁ~」


テトを優しくなでながら宙吊りになっているイノシシをみていい、アリスさんの元へ向かうことにした。


「………全部でおいくつ罠を設置なさったのですか?」

「…………32個ほど」

「…………それで?おいくつ罠にかかっているのですか?」

「…………全部です」

「…………またですか…わかりました……場所だけお教えいただければこちらで対応いたしますのでご案内願います」

「お願いします」


アリスさんを罠に案内していると段々とアリスさんの感情が抜け落ちていく気がして声をかけれなくなってしまった。


「大輔さんおはようございます」

「鈴木さんおはようございます」

「大輔、みのりおはよぉ~」

「おはようございます」

「のりこおはよ」

「ねぇ、さっき聞いたんだけどさ?今日からうちの部署に中途の派遣さんがくるらしいわよ?」

「え?そうなの?」

「うちの部署にって珍しいですね」

「そうですよね、どんな人なんですかね」

「さぁ?見当もつきません」

「ふふふ、それが若いかわいい女の子らしいのよ」

「え?ほんと?」

「うん、さっき人事の人たちが言ってたわ」

「ほぉー、そうなんですねぇ」


俺はPCの電源を入れ椅子に座りながら話を聞き流していた。気持ちはもうあれだけの罠にかかった動物たちをアリスさんに任せてしまって悪いことしたなぁしかなかったからだ。


「え?大輔さん興味ないんですか?」

「え?新しい人にですか?」

「そうです」

「期間はいつまでとか、デスマーチまでに戦力になってくれるのかとかいろいろ興味はありますよ?」

「え?そ、そっちですか!?」

「え?ほかになにかあります?」

「ぷふっ!大輔らしいわね」


なんで鈴木さんが驚いて田中さんに笑われなきゃならないんだろうか…まぁいいや、仕事をしよう。


「みんなちょっといいかな?」


仕事をしようとすると係長と部長が小柄な女性をつれてきて全員に声をかけてきた、きっとその子が新しく来た子なんだろう。


「今日から中途できてもらった安藤 二那あんどう になさんだ」

「安藤です、よろしくお願いいたします…って!え!?」

「どうしたんだ?」

「い、いえ!」

「ん?立花と知り合いか?」

「え?」

「い、いえ…知り合いではないんですが前に足を怪我した時に助けていただいて」

「え?…すみません全然覚えていないのですが」

「う、うそ…そんなぁ」

「はぁ~…立花だからしかたないな…まぁ顔見知りがいるのならしばらくは立花の」

「係長?安藤さんには私とみのりがつきますよ」

「ん?そうか?」

「はい、女性同士の方がいいこともあるので」

「なるほど、そうだな!じゃあよろしくたのむ」

「はい」


とりあえず二人に対応をまかせて全然思い出せないまま、仕事にもどった。


「ねぇ?」

「はい?」

「ほんとにわたしの事全然思い出さないの?」

「え?すみません」

「…普通にショックなんだけど…まぁいいわ、で足をくじいて助けてもらったアニーなんだけど」

「え?あっ!あぁ~!!」

「はぁ~…思い出してくれたみたいね」

「ええ、ケガはすっかり良くなったんですか?」

「ええ、おかげさまでね…まぁ治るまでの間クエストできなかったから生活がきびしかったけどね」

「そうなんですね」

「まさかこっちで会うことになるなんて思いもしなかったわ」

「俺もですよ、ってか向こうに行ける他の人にあったのが初めてです」

「うそ!あんたどこにも属してないの?」

「ええ」

「そう…私は入ってたんだけど中々時間があわなくて結局外されちゃって1人よ」

「仕事をしていればしかないですよね」

「まぁね…まぁいいわ。これから期限中よろしくね」

「ええ、こちらこそ」


思い出した、テトとあった日に助けた子だ…正直テトとの思い出とそのあとのバタバタですっかり忘れていた。まぁお互い異世界副業のことは秘密にしたいはずだし仕事の関係だけでいいと思う。


「さてと、じゃあ今日もお疲れさまでした」

「お疲れ様でした大輔さん」

「大輔おつかれぇ」


安藤さんはいなかったけど仕事が終わったから鈴木さんと田中さんに挨拶をしてタイムカードを押した。


【ブーブーブー】


「さすがアリスさん」


タイムカードをしまうと同時に携帯が鳴り俺はトイレへと入り異世界へとむかった。


「あれ?立花さんは?」

「ん?大輔ならあがったわよ?」

「えぇ!?」

「大輔さんは仕事が速いから」

「そ、そうなんですね」

「そそ、前までもかなり速い方だったけど最近はもっと速くなってね、私たちの分も少し手を回してくれてんのよ」

「すごい方なんですね」

「まぁね、けどそれを鼻にかけることもないし当たり前のように普通にこなしてくれるからこっちもつい甘えてんのよ」

「ふふ、そうね」

「んで?あんた今までなにやってたのよ」

「それが…他部署の…」

「ああ、言わなくてもいいわ」

「え?」

「あたしらもそれよくあるから、相手しなくていいよ」

「そ、そうなんですね」


できればタチバナとクエストの約束でもできたらいいなと思ってたのにあちこちの部署の男たちが群がってきて対応してる間に帰っちゃったよ…はぁ~おかげで仕事もまだかかりそうだし…今日はクエストは無理かなぁ。


「そうですか」

「ええ、びっくりしましたよ」

「それでその方とは今後クエストをご一緒なさるおつもりですか?」

「え?いえ、特にそういうのは考えていないですけど」

「そうですか」

「はい、そもそも同じ職場といえど退社時間も違いますし俺にはテトがいてくれるんで他の人に気を使ってやるよりテトと一緒にやってたほうがいいですからね」

「では今後そのようなお誘いがあればお断りしてもよろしいですか?」

「そうですね、アリスさんがよほど組んだ方がいいと思うなら受けますけどそれ以外は一人がいいです」

「かしこまりました」


安藤さんのことを伝えて今朝の罠にかかっていた動物たちの事とクエストが無事クリアされていたことの報告をうけて昼間は人通りが多い道を夜間に補修するという工事のクエストをうけてせっせと働いて家に帰った。ちなみに今日はテトはアリスさんとどこかに出かけてしまった。


「カミュー」

「はい?え!?アリス先輩!?ど、どうなさったんですか?」

「少々話があります」

「わ、わかりました」


今日タチバナ様から聞いた安藤という女メス豚が不用意にタチバナ様にちょっかいをかけぬように担当のカミューに話をしておかなければなりません。


「そ、それでお話とは?」

「単刀直入にいいます」

「は、はい!」

「あなたの担当が私の担当のタチバナ様と同じ職場になられました」

「え!?そうなんですか?」

「はい、しかも同じ部署だそうです」

「すごい偶然ですね」

「ええ、ですがタチバナ様は基本お一人でクエストをこなしたいと申し上げておりますので不用意にクエスト等にお誘いするは控えるようそちらの方に伝えてください」

「ええ!?せ、せっかく同じ職場で部署も同じなんですから一緒にクエストしたほうが…ひぃぃぃ!!」

「それをこちらが望んでいないのです」

「わ、わかりました…きつく伝えておきます」

「宜しくお願い致します…ついでに仕事以外での不用意な接近もひかえてくださるようお願いしますね?」

「グルゥゥゥゥゥゥ…」

「ひぃぃぃぃぃぃ!!!!わ、わかりましたぁぁぁぁ!!!必ず守らせますぅぅぅ!!」

「さすがカミューです、期待しています」

「あ、ありが…とございま…」


どうやらテトはカミューの打算を感じ取ったのでしょう、私の後ろで本来の姿に戻りカミューをにらみつけていました。そしてカミューは耐えきれず気絶してまいました…失禁とともに…しかたありません、保険の為に最近手に入れたこのスマホのカメラの性能を試してみることにいたしましょう。


「こんなところでしょうか、テト戻りましょう」

「にゃぁ~」


気絶したカミューの下半身に彼女の上着をかけてあげ退散することにしました。


「ふぅ~只今戻りました」

「お疲れ様です」

「お疲れ様です、あ!これ依頼書です」

「はい、たしかに」

「また明日の朝おねがいします」

「かしこまりました」


異世界は太陽が落ちると一気に人通りが少なくなるから比較的早い時間から工事ができるみたいで意外にも日をまたいですぐに依頼がおわった。家に帰るとテトは自分のベッドで寝てたから起こさないように静かにシャワーを浴び俺も眠りに就いた。


「えぇ!?な、なんでぇ!!」

「い、いいですか!絶対に絶対にぜぇーーーったいに!お仕事でも不要な接触は控えてくださいね!」

「せっかく同じ部署なんだから時間あわせたらクエストやれるのに!」

「ダメです!相手が悪すぎます!!最悪あなたも私も消されてしまいますぅ!!」

「えぇぇ!?タチバナってそんなヤバい人なの!?」

「タチバナ様のことは存じ上げませんが周りがヤバすぎるんです!いいですね!」

「わ、わかったわよ」

「ち、ちなみに…向こうで二人っきりで話せば大丈夫なんて安易なことを考えないでくださいね?」

「え?…ええ、もちろんわかっているわよ」

「お願いしますよ?聞けばタチバナ様はギルドもも期待なさっている方らしいのでギルドも上も敵になるようなことだけは本当にしないでください!ほんと揶揄とかではなく消されてしまうから!!」

「わ、わかった…」


なんとか仕事を終えて異世界に行くと担当のカミューが真っ青な顔をしてタチバナと関わり合いになるなと何度も必死にいってきた。日頃おだやかで優しいカミューがこんなに言うんだからきっとほんとのことなんだと思う…怖くて明日からタチバナに会いたくない…どうしよう。


「おはようございます」

「大輔さんおはようございます!」

「大輔はょ~」

「田中さん飲みすぎたんですか?」

「え?えへへへ…昨日ちょっとね!」

「おはようございます…」

「安藤さんおはようございます」

「え!?ひ、ひぃぃぃぃ!!!」

「あっ!ちょ、ちょっと!!」


翌日、朝のクエスト朝採り薬草採取をおわらせて出社したけど俺をみた安藤さんが悲鳴をにげて逃げて行ってしまった…。


「大輔なんかしたの?」

「え?い、いえ身に覚えが…昨日だってそんなにあってないと思うんですが」

「そうよね…寝ぼけてたのかしら」

「飲みすぎてまだ酔ってんじゃないの?」

「もう、何言ってるの?のりこでもあるまいし!」

「あはははは!まぁ気にしても仕方ないし仕事しよ」

「そ、そうですね」


その日、ちらちらと俺をみて気づいて目が合うと安藤さんは真っ青な顔でガタガタ震え席を立つというのを繰り返し、結局安藤さんの分の仕事をやるはめになり夜のクエストができなかった…。



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