第75話
ユーファは痛みにうなされながら、リシャを見つめていた。
リシャはユーファの腕に噛みつき、血をすすっていた。リアは、そんな王の行動に恐れをなしていた。
「リシャ王、どうしてこんなことを……」
恐れるリアに、リシャは微笑む。
「不死になるための手段だよ。こうやって僕が不死身になれば、死んだ母も浮かばれる」
「そんな……人の肉を食べたところで、不死になんてなれるわけがないのに」
リシャは、吐き気をこらえていた。
人が人を食べる光景など、耐えられるものではなかった。
「なれるはずだよ。そうでなければ、母の人生に意味がなくなる」
リシャの言葉は、真剣だった。
「……人間が、不死になんてなれるはずがない」
ユーファは、呟いた。
彼女の表情は、痛みに歪んでいた。当たり前だろう。リシャに切断された腕からは、未だに血が流れ続けている。
「リシャ、お前は前の世代の……母親の死を無駄にしたくないんだろ。ただ、それだけなんだろ?」
ユーファの言葉に、リシャは頷く。
「そうだよ。……人の一生には意味がある。母は、何の実績も残さない弱い人間だった。僕を生産んで、すぐに亡くなった。僕が不死にならなければ、母の人生に意味がなくなってしまう」
リシャが望んでいたものは、母の人生を意味あることにすること。
そのために、リシャは不死になりたいと願ったのだ。
彼は不死になるために産まされたのだから、自分が不死になることが母の人生を有意義にすることだと考えたのだ。
「人の人生に意味なんて……ないよ」
ユーファは、呟く。
リシャは、肉をむさぼる手を止めた。
「では、あなた方の師匠の人生も無意味だったと?」
ユーファは、頷いた。
「ああ、だからギザも『前の世代に縛られるな』と言ったんだよ。俺の人生も、お前の人生も、お前の母の人生も無意味だよ。俺の人生もな」
ユーファの言葉に、リシャは怒鳴り声をあげた。
「人生が無意味!そんな!はずがない!!母の人生も、僕の人生も!!あなたの人生も無意味じゃない!!」
リシャは、怒っていた。
けれども、同時に悲しんでもいた。
「僕は不死になる……そうすれば、母の人生も、君の人生も、意味のあるものになるはずです」
「俺の人生に意味なんてないぜ……」
ユーファは、無理に立ち上がる。
そんな彼女に、セリアは肩を貸す。
「俺は、魔法を後世に引き継がない。俺は何も残さない。人生に意味はない。魔法を学んでいた私の人生に意味なんてない」
「そんな……そんなことは」
リシャは、戸惑っていた。
ユーファは、笑う。
その光景を見ていたリアやセリアは、ユーファがなぜ微笑むことができるのかが分からなかった。
けれども、ユーファはとても輝いて見えた。
なぜ、こんなにも輝けるのかが分からなかった。彼女はボロボロで、一人では立っていることすらできないというのに。
「リシャ、人の人生に意味なんてないぜ」
ユーファは、その場から立ち去ろうとする。
そんなユーファに向かって、リシャは叫ぶ。
「待ってください!私は不死になっている!あなたの人生は、無意味のものではなくなっている!!」
リシャは、ユーファの腕を切断した剣を握った。
それを自分に向ける。
リアは、それを見て息を飲んだ。
「リシャ王!何をなさるつもりですか!!」
リアは、リシャを止めようとした。
いくら凶行に走ったといっても、彼はリアにとっては唯一の王だった。守らないわけにはいかなかった。
「僕はね、不死になった……」
リシャは、自分の胸に突き刺した。
リアは悲鳴をあげながら、リシャ王に駆け寄った。リシャは、痛みにのた打ち回った。リアは必死に、リシャを押さえる。医学の知識がないリアには、剣を抜いてもいいのかすらも分からない。だから、リアはリシャの体を押さえることしかできなかった。
「……セリア、リシャを助けてくれ」
ユーファは、自分を支えるセリアに頼み込む。
セリアは迷ったが医学を学んだ者として、彼女はリシャを助けることを決意する。セリアはユーファの元を離れて、リシャに駆け寄った。
「何もするな!」
リシャは、そう叫んだ。
「僕は、不死だ。不死になったはずなんだ!!」
リシャは、叫ぶ。
その叫びをユーファは、ため息をつきながら静かに聞いていた。
「王、どうか……どうか、生きてください!お願いです!!」
リアは、必死にリシャに懇願した。
セリアも嫌がるリシャを無視して、彼の体から剣を引き抜く。
「助けるわ……あなたは怪我人だし、私は医療を学んだ者だから」
セリアは、必死に血止めを施す。
それでも、リシャは「自分は不死になった」とわめいていた。セリアは、暴れるリシャに手を焼いていた。
「ユーファ君!」
城に、ヒューイの声が響く。
ユーファは、その声に反応して振り向いた。そこにいたのは、急いで城に駆け付けたヒューイとゲリアだった。彼らは緊張していたようだが、悶え苦しむリシャを見て何が起こったのかが分からずに茫然としていた。
「ユーファちゃん、大丈夫!」
腕をなくしたユーファに、ゲリアが駆け寄る。
「それに、いったいこれはどういう状況なの……」
ゲリアの言葉に、ユーファは首を振る。
「人生に意味があるかどうかを証明しようとした結果だ。ヒューイ、覚えておけ。人生は無意味だ」
歩くユーファに、ヒューイは手を貸さなかった。
それどころか、倒れたリシャの元へとヒューイは足を向けた。そして、暴れるリシャを力ずくで押さえつける。ヒューイがリシャを押さえることで、セリアは彼の治療が進めやすくなった。血を流れるのを止め、傷跡を消毒する。
「ユーファ君。私は、人生が無意味であるとは思いません」
リシャの体を押さえながら、ヒューイは呟く。
「……人生が無意味だとは思いません。少なくとも、あなたがいたから今の私がある。シルメ君がいるから、あなたがある。……それが、無意味だとは思いません」
ヒューイの言葉に、ユーファはあっけにとられた。
だが、穏やかに彼女に笑う。
「それが……お前の答えかよ」
そう、ユーファは呟いた。
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