第73話
城に連れてこられたユーファは、懐かしい場所だと思った。華やかだが、外の攻撃に備えた堅牢な場所。
かつては、ここにも師匠と共にやってきた。
そのときは、自分が師匠たちの跡を継ぐのだと信じていた。
当時は、リシャの父親が王であった。だが、今はリシャが王となっている。
リシャは、本来なら王にはならないはずだった。だが、リシャは不死になるために父から王の座を奪い取った。そして、さらにはユーファを探し出して、この場に連れてきた。悪い噂を聞かないリシャは、王として成功しているのだろう。
ユーファは、リシャは何故そんなにも不死にこだわるのかが分からなかった。
不死とは、永遠に死なないということだ。
永遠に死なないということは、永遠に苦しみ続けるということだ。
ユーファには、そんな苦しみを想像できない。
永遠に、無理して微笑み続けるなど、ただの地獄だ。
「ユーファ、久しぶりだね」
城のなかで、リシャはユーファは出迎えた。
リアとセリアもその場にはいたが、リシャの目には彼らが見えていないようだった。
リアは、王の出方を緊張しながらうかがっていた。
セリアは、王という権力を持った人間が目の前にいることが信じられないようだった。
だが、リシャはそんな二人を無視する。おそらくは、二人はリシャにとっては興味の範囲外の人物なのだろう。
そんな盲目のリシャを見て、ユーファは「まるで旧友の再会のようだな」と思った。
「リシャ、お前も元気そうだな」
男のような横柄な態度に、リシャは眉を寄せる。おそらくは、ユーファがこんなふうに喋るとは思わなかったのだろう。
仕方あるまい。
リシャと顔を合わせていた時期は、まだユーファは女言葉で喋っていた。
「どうして、そんな喋り方なんだい?」
リシャは、ユーファに尋ねた。
ユーファは、肩をすくめる。
「ちょっと色々あってな。女言葉を忘れちまったんだよ」
リシャは興味深そうに「ふーん」と呟いた。
「お前こそ、どうして未だに不死にこだわるんだよ」
不死になる実験など、遠い昔に失敗に終わっている。
それこそユーファたちが生まれた時に、失敗が確定してしまっている。自分たちは、不死ではない。それが失敗の証だ。
「ユーファは、自分の実の親を知っているかい?」
リシャの質問に、ユーファは首を傾げた。
「知らないよ。知ってどうなるんだよ」
ユーファは、つながれて育った。そこから解放したのは師匠で、実の親ではなかった。だから、ユーファはその問題を考えることをしなかった。そもそもユーファの親は、実の兄弟同士だったという。知っても、何か良い影響がでるとは思えなかった。
「僕はね、知っているんだ。僕の父親は、前王。母は、その妹だった」
ユーファは「ああ、そうか」と思った。
リシャは、ユーファと違って王族である。調べれば、父母のことは分かったのかもしれない。いや、調べなくても分かったのかもしれない。それは、一種の不幸なのだろうかとユーファは思った。
「僕の母は、僕を生んですぐに亡くなった」
リシャの目は、どこか悲しげであった。
覚えていない母のことを懐かしんでいるような顔であった。
ユーファには、リシャの悲しみを理解できなかった。実の親のことを全く知らない、ユーファには分かりようがない感情であったのだ。
リシャは、ユーファに近づく。
コツ、コツ、と響く足音にユーファはリシャに武芸の心得がないことを察した。もしも、少しでも武の心得があれば足音を響かせない歩き方を知っているはずである。
「母は僕が不死になるために、僕を生まされた」
リシャは、腰につけている剣を抜いた。王族が身に着けるに相応しい、装飾が施された剣であった。
ユーファは、目をつぶった。
「だから、僕が不死にならなければ母が生きた意味はない」
リシャは、そう言い切った。
まるで、それが信じる唯一の宗教であるかのように。
「……ギザが、最初にお前を俺のところに連れてきたときのことを覚えているか?」
ユーファは、ぼそりと呟いた。
リシャは、足を止めた。
「覚えているけれども……どうして、それを今……」
懐かしい話であるが、どうしてそんな話をするのかをリシャは理解できなかった。意味のない話だ。あの時から、最初から、ずっとリシャとユーファは相いれなかった。
ユーファは、目を開いた。
彼女は、微笑む。
「ギザはね……。たぶん、お前を救ってほしかったんだろう。だから、お前を俺のところに連れてきた」
リシャは、目を丸くした。
信じられない、とでも言いたげな顔であった。
「救う?あなたが、僕を……」
ユーファは、リシャに手を伸ばす。
リシャは、ユーファを睨みつける。
そして、腹を抱えて笑い出した。
「無理だ!あなたに、僕が救えるはずがない!!第一、どうやって救うっていうんだ」
リシャは、大きく一歩を踏み出す。
手には、剣を持ったままだった。
そして、その剣でユーファの右腕を切り落とした。
その光景を見て悲鳴を上げたのは、セリアだった。リアも驚き、声もあげられなかった。
ユーファは、何も言わずに切断された腕を見ていた。自分の腕を切り落とされたというのに、ユーファは無言であった。
リシャは、切り落とされた腕を拾い上げる。
そして、そこから滴り落ちた血をすすった。リアは、その光景を茫然と見つめていた。その顔は信じられない、と言いたげな表情をしていた。
「ユーファ、大丈夫!」
はっとしたセリアは、ユーファに駆け寄った。医療にかかわるものとして、セリアはすくみあがる体に叱咤して行動をうつしたのだった。セリアは、ユーファに止血を施す。ユーファの血は止まらない。
だらだらと血を流し続けるユーファは、膝をついた。ユーファは、すでに怪我を負った身である。そこで腕を切り落とされたのだから、血が足りなくなったのだ。
「リシャ王……なんでこんなことを?」
リアは、震えながら自分が使えるべき王に訪ねる。
リシャは、切り落とされた腕から血をすすりながら笑っていた。
「母の人生を無意味にしないためだよ」
リシャの返答に、リアは背筋が寒いものを覚えた。
「ギザは言ったんだよ」
零れ落ちる血を抑えながら、ユーファは言った。
「前の世代には縛られるなって」
リシャは、首をかしげる。
「それが、救いの言葉だったんですか?」
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