第71話
山を歩いていたヒューイは、足を止めた。
ゲリアは、周囲を見渡す。
周囲は、特に変哲もない森に思えた。人の気配はない。代わりにゲリアの耳に聞こえたのは、水が流れる音だ。どうやら近くに川があるらしい。ゲリアが人の気配を察せないだけかと思ったが、シルメも何も見つけられないようであった。
「どうしたの?もうすぐ、ユーファちゃんたちに追いつきそうなの?」
ゲリアは、そう尋ねた。
ヒューイは、顔をゆがめていた。
「……いいえ。複数の足跡を追ってきたつもりでしたが、どうやら謀られたようですね」
ヒューイは、山の中の足跡をたどって歩いていた。その足跡の数が複数だったことから、そこにユーファがいるとヒューイは信じていた。だが、違ったらしい。
前方の木々の影から、人が現れた。
現れたのは、ブーアンだった。
申し訳なさそうな顔をした彼は、包丁のような刃物を持っていた。ブーアンはその刃物をもったまま、ヒューイに向かって突進してきた。
ゲリアは、それに驚いた。
だが、ヒューイはそれに動じることなく刃物を避ける。刃物を向けられたヒューイは槍で、ブーアンの刃物を落とした。
がさり、と音が聞こえた。
ゲリアには、その音がどこから聞こえてくるのか分からなかった。
だが、シルメはその音の出どころが分かったようだった。
「ヒューイ!危ない!!」
ヒューイがいた、場所。その場所を狙って、弓が放たれた。シルメは剣を抜き、その弓を叩き落とす。
「どこかに弓矢使いがいるよ」
シルメは剣を構えて、木の上を睨む。どこから弓矢を射っているのか分からないが、シルメたちを狙っていることは間違いない。
今度の弓矢は、ゲリアを狙う。
シルメは、その弓矢も叩き落した。
「うわぁ!」
ブーアンが声を上げながら、シルメに突進してきた。刃物を持っていないブーアンは、危険ではない。シルメは、簡単にブーアンを拘束した。
「一体、どうしたの?あなたの孫は、リアにさらわれたんじゃ……」
シルメは、混乱していた。
その様子をみていたヒューイが、舌打ちをする。
「孫を人質にとられたんでしょう」
それを知ったシルメは、ブーアンの拘束を緩めた。ブーアンはその隙を見て、シルメの顔面を殴る。それに怯んだシルメは、ブーアンを逃がしてしまった。
「なにをやっているんですか!」
ヒューイは、怒鳴る。
だが、シルメは複雑な表情をしていた。
「でも……だって……ヒューイやユーファが人質になっていたら、俺でも同じことをやるよ。うん、やってしまうよ」
シルメの言葉に、ヒューイはいら立ちをあらわにした。
そして、殴られた顔を抑えるシルメの胸元を掴んだ。
「あなたは……どうして、そんなふうに私たちを守ろうとするんですか……」
ヒューイの顔は、どこか悲しそうだった。
シルメは、微笑んでいた。
「君たちが、とても大切な弟たちだからだよ」
そうシルメは言った。
ヒューイは、そんなシルメから顔をそむける。
「あなたはいつも大切にしなくていいものまで、大切にして……」
ヒューイは、唇をかみしめていた。
そんなヒューイの頭をシルメはなでた。この世でもっとも愛おしいものをなでるように、とても優しく。
「あなたは、私たちにとって大切な弟ですよ」
シルメのその言葉に、ヒューイは何か反論しようとする。
しかし、ヒューイが何かを言う前に弓矢が再び飛んできた。その弓矢は、シルメの肩に当たる。その攻撃に、ヒューイは眼を見開いた。
「つぅ……!」
シルメは、痛みに耐えて肩に刺さった弓矢を抜く。傷を負った肩をシルメは抑え、顔をゆがめた。
「毒が塗られていたのか……」
あふれ出る血を抑え、シルメは呟く。
「シルメ君、大丈夫ですか!?」
ヒューイは、シルメに駆け寄る。
シルメは、ヒューイを遠ざけた。
「……ここは俺が、引き受けるよ。うん、ヒューイたちは先にユーファを探してほしい」
シルメの言葉に、ヒューイは驚く。
「何を言っているのですか!」
毒を受けたシルメでは、弓使いを相手にすることは難しいだろう。
シルメが受けた毒の種類は分からないが、受けてすぐに毒を負ったと分かったということは痺れや痛みをともなっているということだ。今は動けているが、時間が立てば立つこともできないかもしれない。そんなシルメを一人残していくことなど、ヒューイにはできなかった。
ヒューイの言葉に、シルメは力なく笑う。
「毒を喰らってしまったからね。これでは、足を引っ張ってしまうよ」
シルメは、そう言った。
ヒューイは、首を振る。
「足を引っ張るなんて……私なんて……」
ヒューイは、そんなシルメの前に立った。
「私が、囮になります。シルメ君は、傷の手当てをしてください」
「ヒューイ!ユーファのために、行ってくれ!!」
シルメの懇願に、ヒューイは首を振った。
そして、武器を構える。
「あなたが、ユーファと幸せになってくれなければ意味がないのです。……だって、私が師匠たちを殺したんですから」
ゲリアは、はっとした。
彼らの師匠を殺した。
これが、ヒューイの秘密だったのだ。
シルメは、その話をどこか悲しそうな顔で聞いていた。
「知っているよ」
シルメは、そう答えた。
ヒューイは、言葉を失う。
「俺たちは、自分たちの師匠を殺した人間のことを……ずっと前から知っていたんだよ」
そう言ったシルメの体に、弓矢が撃ち込まれる。
ヒューイは、叫び声をあげた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます