第66話
ユーファが寝ている部屋のドアを閉めると、にやにやしているユアがヒューイの背中をつついた。
「どうしたんですか?」
ヒューイは、いぶかし気に尋ねる。
「この町に竜の死体を換金できるような場所なんてないぜ」
ユアの言葉に、ヒューイはブーアンに確認を取った。
ブーアンは「ありませんよ」と答えた。
ヒューイとシルメは、顔を見合わせた。
「うーん、どうしようか。俺たちは、竜の死体以外は財産らしいものがないからね。ユーファの医療費は、竜の死体を一部ゆずることで話はついているんだけど……」
「私が、他の町に行って換金してきましょうか?」
ヒューイの言葉に、シルメは考える。
今ここで、戦力を分散させるのはまずいと思った。それと同時に、ヒューイが側にいないことでユーファが不安にさせるかもしれない。
「なにか、他の方法はないかな……」
シルメが悩んでいると、ユアがヒューイの肩を抱いた。ヒューイは、ユアの腕を嫌そうな顔をして振りほどいた。
「なぁ、二人とも俺に剣術とか教えてくれよ。そうしてくれたら、二人を俺の家に泊めるからさ」
ユアの申し出に、シルメは眼を見開いた。
「いいんですか?」
喜んだシルメとは反対に、ヒューイは難色を示した。
「ちょっと、シルメ君。私は、槍を人に教えるなんてやったことはないんですよ。それに、私は誰にも槍を教える気はありません」
ヒューイの言葉に、シルメは困ったように笑った。
「ユアに一から教えるわけではないよ。それに、あくまで一時的に教えるだけだから伝承じゃない」
「それでも、嫌です。……ですが、私の型をみてユアが学ぶのならば話は別ですが」
それでいいと思うよ、とシルメは言った。
「なぁ、どうして俺に教えるのが嫌なんだよ」
ユアは、頬を膨らませる。
相変わらず、可愛くない顔だった。
「別に、あなたに教えるのが嫌なのではありません。私は、自分の技を誰にも教える気はないのです。シルメ君だって、そうでしょう」
「うん……そうだね。ごめんね、ヒューイ」
シルメが謝ると、ヒューイは背を向けた。そして、そのままヒューイは家を出ていく。
ユアは、シルメに耳打ちする。
「俺、なんか悪いことしちゃった?」
ユアは心配そうに、シルメに尋ねる。
シルメは、曖昧に笑った。
「いや、そうじゃないよ。ただ、俺たちはあんまり人を信用できなくて……自分たちがいなくなった後の世界に、自分の受け継いだ技術を残すことに意味を見出せなくなっているんだ」
その話を聞いたユアは、じっとシルメを見つめてきた。
その視線に気が付いたシルメは、次の瞬間には朗らかに笑っていた。その笑顔には、最年長としてのプライドが見えた。三人を纏める長兄。その強さが、笑顔ににじみ出ていた。深入りするな、と言っているような。
「お前らに、何があったんだよ」
ユアは、恐れずに尋ねた。
その率直な質問に、シルメは眼を丸くした。自分たちの関係に、ユアが踏み込んでくるとは思わなかったのだろう。
「色々あったんですよ」
シルメはそう言って、その場を去ろうとした。
だが、ユアはそんなシルメの肩を持つ。
「おい、色々あったってなんだよ」
ユアの鋭い言葉に、ゲリアは二人の間にはいった。体格の良い二人が剣呑な雰囲気になるのは、ゲリアにとっては恐ろしかった。
「まぁまぁ、ユアちゃんも落ち着いて。シリルちゃんも人に言えないことぐらいあるんだから」
「だって、気になるだろ」
ユアの言葉は率直だ。その言葉に、ゲリアは眩暈がした。びっくりするほど、ユアは単純だ。
「……嫌な事件があったんです。それで、ユーファは男になりました。私たちも人が信用できなくなりました。そして、自分の技術を継承させることを止めたんです」
シルメは、もうそれ以上は聞くなと言っているようだった。
ゲリアは、伸ばしかけた手を引いた。
今のシルメに、ゲリアは触れられなかった。まるで野生動物が警戒心をあらわにしているようで、本能的に手を出すことが恐ろしかったのだ。
「お前らが信用できる人間ならば、ちゃんと剣術を教えてくれるってことだよな」
ユアの言葉に、ゲリアもシルメも驚いた。
明るいユアは、そんなことに気が付かないかのように笑っていた。まるで、人間の悪意など知らないかのようだった。
「俺、あんたらに信用されるように頑張るよ」
ユアの言葉に、シルメは無言だった。
ユアは、おそらくはシルメが始めて会うタイプの人間だったのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます