第65話

 ユーファが目覚めた時、最初に見たのはシルメだった。


シルメは体育座りをして、ユーファの手をしっかりと握りしめていた。それを見たユーファは、心配をかけてしまったと申し訳ない気持ちになった。


「ユーファ、目覚めたんだね」


 ユーファを見ると、シルメは微笑んだ。


 その表情を見て、ユーファも笑う。


「わりぃ。心配かけたな」


「こういうときは、お互い様だよ」


 シルメは、ユーファの頭をなでた。


「ヒューイとゲリアが合流したよ」


 シルメは、部屋にいたゲリアを指さす。だが、ヒューイの姿は何処にもなかった。ユーファは、ヒューイの姿を探す。


「ヒューイは、森に隠した俺の武器を取りに行っているところだよ」


 察したシルメが、ヒューイの行方を答える。


 ユーファは、眉を寄せる。


「……どうして、森に武器があるんだよ」


「そこは、俺もよく知らない」


 シルメとユーファは、そろってゲリアを見た。


 ゲリアは苦笑いをする。


「俺が持とうとしたんだけど、剣が重すぎて森に隠したんだよね。シルメちゃんもヒューイちゃんも、よくあんな重いもん持てるよね」


 ゲリアの言葉に、ユーファは真剣な顔で答えた。


「筋肉ダルマたちの常識に付き合うのは辛いからな」


 シルメは、首を傾げた。


「筋肉ダルマって……そんなに筋肉ついているかな?」


 不思議そうなシルメ。そんなシルメに、ユーファとゲリアはそろってため息をついた。


「せめて、自覚はもてよ。筋肉ムキムキコンビの相方」


「シルメちゃんたちは、そうだね。平均よりもだいぶムキムキだよね」


 ユーファとゲリアの言葉に、シルメは自分の腕をつついていた。


「おや、目がさめたんですね」


 薬を持ったブーアンが、部屋のドアを開けた。


 その表情は、相変わらず穏やかそうだ。


「気分は、どうですか?痛みは、ありますか?」


 ブーアンの言葉に、ユーファは頷いた。


「痛みも熱もないぜ。完全に消えた。手当してくれて、ありがとうな」


 笑顔のユーファに、ブーアンが首をかしげる。


「あの……どうして男言葉なんでしょうか。それに、いくら薬を服用しているからって痛みが消えるというのは」


 ブーアンは困っていた。


 ユーファが女であることは、手当てしたときに判明している。だが、意識がはっきりしているのに男言葉を使うとは思わなかったのだろう。


「男言葉は、もう癖になってるからな。女言葉を忘れちまったんだよ。痛みに関しては、本当にねえぞ」


 ほら、とユーファは両手を広げる。


 ブーアンはいぶかしげに、ユーファの服を脱がそうとした。それに気が付いて、ゲリアがシルメを引っ張り出す。


「ほら。女の子の診察なんだから、男の子は出ようよ」


 背中を押されたシルメは、はっとする。


「そういえば、ユーファは女の子だったんだね。ここ数年、男扱いだからすっかり忘れてた」


「覚えててあげようね」


 ゲリアはあきれた。


 シルメは、相変わらず笑顔である。


「実のところ、嬉しくて忘れていたのかもね」


 シルメは呟く。


「嬉しい?」

 

 ゲリアは、不思議だった。


 シルメは、何が嬉しいのだろうか。


「ユーファが、男言葉を使うってことはユーファが自由だってことだから」


 その良い方に、ゲリアは引っかかりを覚えた。


 だが、その疑問をぶつける前に剣を背負ったヒューイがやってきた。その後ろには、ユアもいた。


「おまたせしました。剣を持ってきましたよ」


 やってきたヒューイをシルメは笑顔で迎え入れた。


「ヒューイ、ユーファが起きたよ」


 嬉しそうなシルメに、ヒューイはほっとしたようだった。


「ユーファ君の様子は、どうでしたか?」


 ヒューイの言葉に、シルメは答える。


「元気だったよ。痛みもない、と言っていた」


 シルメの言葉に、ヒューイは顔をしかめる。


「あれほどの火傷で、もう痛みが消えた?」


 ヒューイは無表情になり、むすっとした表情で腕を組んだ。


 しばらくすると、ブーアンが部屋から出てきた。ブーアンは、はぁと大きくため息をつく。


「ユーファ君の様子は、どうですか?」


 ヒューイは、医者のブーアンに尋ねた。


「薬は効いているようですけど、本人がもう治ったと聞かなくて」


 ブーアンの話を聞いたヒューイは、無言でユーファのいる部屋に入った。入ってきたヒューイに、ユーファは驚かなかった。シルメは、少し驚きながらヒューイの背中を見ていた。


「無事だったんだな、ヒューイ!」


 ユーファは、ヒューイの無事を喜んだ。


 だが、ヒューイの顔は険しい。


「治ったなんて、嘘ですね」


 ヒューイは、ユーファを睨む。


 ユーファ、ヒューイから視線をそらした。


「……治ったって。今だったら、一人で動けるしな」


 ユーファは、派手に腕を動かす。


 だが、ヒューイがそれを止めた。


「下手な嘘は止めてください。あなたは重症なんです」


「でも、早くこの町を離れたほうがいいだろ」


 ユーファは、王都からの敵を恐れているようだった。そのために、早く町を離れたと考えているようだ。それは、ヒューイやシルメのためを思ってのことだろう。


「あなたの体の方が重要です。休んでください」


 ヒューイの言葉に、ユーファは視線を落とす。


「でも、時間も金もないだろ」


 ユーファは、心配していた。


「大丈夫です。倒した竜の死体を売ったりすれば金が稼げますし、時間も私やシルメ君が稼ぎます」


 ヒューイは、シルメの方を見た。


 シルメは、穏やかに笑っていた。


「そうだね。ユーファ、今はゆっくり休んでいいんだよ。俺も、君の体が心配なんだ」


 ユーファは、寝かされている布団を強く握っていた。


 その様子は、ひどく悔しそうに見えた。


「……俺のせいで、お前らを危険にさらしたくないんだ」


 シルメは、ユーファの頭に手を乗せる。


 そして、優しく彼女の頭をなでた。


「言っただろ。迷惑だなんて思ってないし、お互い様だって。だから、自分のせいで俺たちが危険にさらされると思わなくていいんだよ」


 シルメの口調は、穏やかだった。


 ユーファは、ヒューイを見た。彼女は、ヒューイのことを心配しているようだった。一歳年下の男をそこまで心配するなんて、とヒューイは思う。


「私も心配いりません。というか、私は大人です。シルメのように、信頼してください」


 ヒューイは、腕を組みながらため息をつく。


「……分かった。今は、回復に努める」


 ユーファは、しぶしぶそう言った。

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