第64話

ヒューイは森に行き、隠していたシルメの剣を持った。改めて見たシルメの剣は、やはり大きい。ヒューイの槍よりは短いが、それでも剣としては破格なほどに巨大だ。その巨大な剣を、ヒューイは背負う。


「……ところで、いつまで私をつけているつもりですか?」


 ヒューイは、自分の背後に語り掛けた。


 すると、木の影からユアが現れた。


「気が付いたのかよ」


 ユアは、舌打ちをした。


 ヒューイは、ため息をついた。


「気配を隠す気もないのですから、気が付いて当然です」


 シルメもユーファも気配を消すぐらいのことはできる。普通なら、魔法使いに気配を殺す手段はいらない。だが、ユーファはシルメとヒューイから気配を殺す術を習っていた。そのため、シルメたちよりもユーファは気配を隠すのが下手だ。しかし、ユアはそのユーファよりも気配を殺すのが下手だった。


「気配を隠すってどうするんだよ」


 ユアは、膨れた。


どうやらユアの祖父は彼に戦う術は教えたが、気配を殺す方法などの方法は教えなかったらしい。それとも、知らなかったのか。ユアの祖父は兵士だと言っていたから、その可能性はあると思った。正々堂々戦う兵士に、気配を殺す手段はいらないからだ。


 大柄の男の可愛くない表情をみたヒューイは、槍でユアの足元を差す。


「まずは、足音。草がすれる音も、場所を割り出す判断材料になります」


 ヒューイの言葉に、ユアは感心する。


「強い奴は、気配にまで敏感なのかよ。足音なんて、普段は意識してないのによ」


 ユアは、その場で足踏みをしていた。その度に足音が鳴っていたが、ユアはそのかすかな音に気が付いていないようだった。


「それより、私に何の用事ですか?」


 改めて、ヒューイは尋ねる。


 ユアは思い出した、と言った。


「お前、槍が強いんだろ。俺に稽古をつけてくれ」


 まるでそれが名案だとばかりに、ユアはニコニコしていた。


 ヒューイは、彼から顔をそむける。


「嫌です。どうして、私がそんなことをしなくちゃならないんですか」


 ヒューイの言葉を聞いたユアは、不満げな声を上げる。


「なんだよ。俺は村の守り人だっていっただろ。お前ら二人に倒されて、けっこうショックなんだよ」


 町の人間にも恰好が悪いところを見られたし、とユアはいう。


「だから、自分を鍛えなおして強くなりたいんだよ」


 ユアの言い分は分かった。自分を鍛えなおしたい、というのは殊勝な心掛けである。だが、ヒューイは首を振る。


「他を当たってください」


 その冷たい言葉に、ユアは頬を膨らませた。

 

「ケチ。良いだろ、別に教えてくれたって」


「私たちは、弟子を取る気はないのです。強くなりたいのならば私とシルメは毎朝手合わせをするので、それを見ていなさい」


 ヒューイは、山を下りて行った。


 ユアは、その背中を追う。


「なあなあ、王都はあんたみたいな強い奴がたくさんいるのか?」


 楽しそうにユアは尋ねる。


 何がそんなに楽しいのだろうかと思いながらも、ヒューイはぶっきらぼうに答えた。自分の弟子でもないし、仲間でもないユアに優しく答えてやる義理はなかった。


「いませんよ。私たちは、これでも国で一番の手練れの弟子だったのですよ」


 ヒューイがそう言うと、ユアは「へー」と呟いた。


「あんたら、そんなに偉い人の弟子だったのかよ。いいなぁ。俺は生まれてから、ずっとこの町から出ていったことがないんだ」


 ユアは、悔しそうだった。


彼も若い男である。都会で一旗揚げたい、という野望があるのかもしれない。そう思うとユアも哀れだ。こんな田舎の町では、剣術を学ぼうにも限られた手段しかない。


「王都って、都会なんだろ。女も都会的な美人がいっぱいいるんだろ」


 ユアの言葉に、ヒューイは前言を撤回する。


 ユアは田舎にいるべき存在だ。都会に出たら、堕落するタイプだろう。


「都会には、あなたが期待するようなものなんてありませんよ」


「美女はいないのかよ」


 不満げなユアに、ヒューイは眉を寄せる。


「そんなに美女が見たいのなら、ユーファの顔でも見ていたらどうですか」


 ヒューイの言葉に、ユアは不満げな声を上げる。


「あいつ怪我人だろ。しかも、そこまで美人じゃないだろ」

 

何気ないユアの言葉。


 その一言に、ヒューイは一瞬で無表情になった。


「あなたとは一生分かり合える気がしません」


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