第63話

 しばらくすると、ブーアンが部屋に戻ってきた。そして、二人を客室と思しき一室に通した。その部屋は狭く、ベット一つがようやく入るほどだった。


 そこには、シルメとユーファがいた。


ユーファはベットに寝せられており、シルメがその横で体育座りをしながら居眠りをしていた。シルメの手は、ユーファの掌を握っていた。堅く握り合った手と手は、二人の深い信頼関係を表しているようだった。


その姿を見た時、ヒューイは懐かしい感覚を覚えた。それは王都から逃げた時に、川のなかで見た光景だった。あの時見た、シルメとユーファの抱擁。


 ヒューイは、罪悪感を覚える。


 シルメとユーファは、今も昔も似合いの一対に見えた。


 自分は二人を引き裂いてしまったのではないか、と思った。ユーファが女を捨てることになった原因は、ヒューイにある。ヒューイが何もしなければ、シルメとユーファはそのまま結ばれていた。


 それは、王都を逃げ出した時から思っていたことだった。


「ヒューイちゃん?」


 ゲリアは、ヒューイに話しかける。


それにヒューイは、はっとした。


ヒューイは、シルメに近づく。シルメは、幼い子供のような安心した顔をして眠っていた。ヒューイは、そんなシルメの肩をゆする。


「シルメ君……シルメ君。起きてください」


 ヒューイが声をかけると、シルメがゆっくりと目を開けた。そしてヒューイを見つけて、シルメは優しげに微笑んだ。


「ヒューイ。ユーファは、無事だよ。君は?」


 シルメは、心の底から嬉しそうだった。


 その笑顔に、ヒューイは罪悪感を覚える。シルメはいつだって、ヒューイを実の弟のように扱う。本当は、そんなふうに扱われる所以はないというのに。


「こちらも無事です。ユーファ君は、あなたがついていた時点で心配はしていませんでしたよ」


 シルメは、ユーファよりも強い。


そんな男が夜遠し走って、医者のもとにユーファを届けたのだ。ヒューイが、心配することなど何もなかった。


「ユーファ君の状態は?」


 ヒューイは、眠るユーファに視線を向ける。彼女は深い眠りに落ちていて、起きる気配もない。


「火傷が酷くて、薬を塗ってもらった。今は、痛み止めと解熱剤の副作用で眠っているよ」


 それを聞いたヒューイは、顔をしかめる。


「痛みを感じていたんですか……。あの火傷ですから当然ですよね。それでも、私たちには何も言わないで」


 ヒューイは、悔しそうだった。


 シルメは、仕方がないという。


「ユーファは我慢強いからね。俺たちに弱いところを見せないし」


「それは……私が信用ならないせいですかね」


 ユーファは、ヒューイの裏切りをしらない。だが、シリルと違って、ヒューイの付き合いはそれほど長いものではない。そのため、シルメのような信頼を得られてないのではないかと思った。


 ヒューイの言葉に、シルメは首を振る。


「ユーファは我慢強いだけだよ。ヒューイのことは信頼していると思うよ」


 心配はない、とシルメは言った。


 その顔には、ユーファへの信頼があった。その信頼が、ヒューイは羨ましい。ヒューイの目には、いつもシルメとユーファの関係が眩しく見えていた。


「……あなたより先にユーファに出会っていれば、私もあなたのようになれたでしょうか?」


 ヒューイは、馬鹿なことを言ってしまったと思った。


 いくら先にヒューイがユーファに出会っていたとしても、シルメのような信頼関係は築くことはできなかったであろう。


「今と変わらないよ」


 シルメは、穏やかに言う。


「きっと、今と変わらない。ヒューイ、君が心配性なだけだよ」


「あなたが、楽天的なだけです」


 ヒューイは、ため息をつく。


 シルメは、ユーファとつないでいた手と反対の手をヒューイに向かって伸ばした。そして、ヒューイにしゃがむように指示する。ヒューイが屈むと、シルメは彼の頭をなでた。まるで、子供にするかのように。


「ヒューイ。きっと君も疲れているんだよ。ほら、一緒に休もう。ここは安全だよ」


 シルメの言葉に、ヒューイは首を振る。


それによってシルメの手は、ヒューイから離れた。


「シルメ君の武器を森に置いてきてしまいました。あなたたちの無事が確認できたので、取りにいってきます」


 ヒューイは、立ち上がった。


「少しまっていてください」


 そういって、ヒューイは家を出た。


 シルメは、その背中をいつまでも見つめていた。

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