第62話
ユアは、一軒の民家にヒューイたちを案内した。
そこは、医者の家だという。質素な家に入ったヒューイたちを出迎えたのは、老いた男とその孫と思しき少女だった。男の方が医者なのだという。
「ようこそ、我が家へ。私は、ブーアン。こちらは、孫で助手のセリアです」
ブーアンと名乗った男は、丁寧にヒューイに礼を取った。
ヒューイは、慌ててできる限り丁寧な礼をとった。ゲリアも、それに倣う。ゲリアが取った礼は、王都でよく見られていた礼だった。
「私は、ヒューイ。こちらは、ゲリアです」
ヒューイたちの話を聞くと、ブーアンは微笑む。優しそうな微笑みに、ヒューイは少しばかりほっとしていた。この人ならば、重傷を負ったユーファを追い返したりはしないであろうと思ったからだ。
「夜中にきた二人は、我が家の客室で休んでいますよ。特に女性のほうは、火傷が酷かったので」
セリナは、ヒューイたちにお茶を出した。良い匂いのするお茶だった。ブーアンが席を外すと、ヒューイはほっと溜息をついた。
「正式な礼を取ったのは、久しぶりでした。おかしくはありませんでしたか?」
珍しく、ヒューイは不安げだった。
ゲリアには、それが新鮮だった。
「全然、おかしくなかったよ。どこかで、習ったの?」
「昔、修行していた時に習ったんです。だいぶ、昔のことですから自信がなかったですが」
ヒューイは、そう言った。
ゲリアは、驚いた。
「修行中にならったの?」
「はい。私の師が、学のある人だったんです。無学で獣のようだった私を、人間にしてくれました」
どこか懐かしそうなヒューイの表情に、ゲリアは修行中には良い思い出がたくさんあるのだろうと思った。ゲリアは、にこにこしていた。
ヒューイはそれに気が付いて、罰が悪そうな顔をする。なにか気にさわることでもしたのだろうか、とゲリアは不安になった。だが、ヒューイが口にしたことは予想外のことだった。
「……私が、こんなことを言う権利はありませんでしたね」
ぽつり、とヒューイが呟く。
「どうして、いい思い出だったんでしょう?」
ゲリアは、問いかける。
ヒューイは、うつむいていた。
「私は、自分の師やシリルの師。そして、ユーファの師に取り返しのことをしてしまいました。私は……そのことを二人に責められることを何より恐れているのです」
その告白に、ゲリアは茫然とする。
三人はとても仲が良くて、秘密などないようだった。だが、ヒューイはシルメとユーファに大きな秘密を抱えているという。
「どうして……そんな話を俺に?」
ゲリアは、ヒューイの仲間ではない。一時的に、一緒にいるだけだ。それでも、ヒューイはゲリアに罪を告白するかのような話をした。
「あなたは、この町で私たちの元から去るかもしれません。そんな他人に、罪の告白をしたかっただけですよ。なにせ、シルメたち以外の他人とここまで一緒にいたことはありませんでしたから」
ヒューイは、一つ息をついた。
ゲリアは、息を飲む。
ヒューイの秘密を知ってしまったことが、心苦しくてたまらなかった。いっそのこと、今ここで聞いたことをシルメたちに明かせればとも思った。
だが、明かすことはできない。
シルメたちにとって、ゲリアは部外者だ。その部外者が、ヒューイの秘密を明かすわけにはいかないと思ったのだ。
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