第56話

「発熱してる……。火傷が化膿しているのかも。ちゃんと手当はしたのに」


 シルメは、戸惑っていた。


 ユーファの熱はかなり高く、素人の手当ではどうにもできないことは分かっていた。だが、この近くには医者もいない。


「なに慌てているんですか!」


 ヒューイは、怒鳴った。


 彼はユーファの様子を確認すると舌打ちをする。


「当初の計画通りに今すぐに村に行って、医者に見せるべきです。シルメ君、ユーファ君を背負ってください」


 ヒューイは、ユーファをシルメに背負わせる。シルメの武器は、少し悩んでヒューイが持った。


「ゲリア君、君は他の荷物を持ってください」


 名前を呼ばれたゲリアは、はっとする。


「うん」


 指示をもらったゲリアは、二人が持ち切れなかった荷物を持つ。そのほとんどが保存食と竜からとった売れそうな部位だった。


 そのまま四人は、山を下る。


 大荷物を持ったまま下山するのは、ゲリアにとっては初めてのことだった。山の悪路に悪戦苦闘しているゲリアとは違って、ヒューイとシルメは颯爽と山を下りる。ゲリアよりも重い荷物を背負っているのにも関わらずだ。


ゲリアは、二人からだいぶ遅れ始めた。それを見て、ヒューイはシルメに声をかける。ユーファを背負ったままで、シルメは振り向いた。


「シルメ君、先に村に行っていてください。ゲリア君が遅れているので、私は彼と一緒に後を追います」


 ヒューイの言葉に、シルメは頷いた。


 その顔に迷いはなかった。


「分かったよ。気を付けてね」


 シルメは、今までよりも足早に山を駆け降りる。


 ゲリアは、どきりとした。


ゲリアとヒューイは、今二人っきりである。このまま自分は殺されてしまうかもしれない、とゲリアは思った。


「ゲリア君」


「あっ、はい」


 名前を呼ばれたゲリアは、背筋を正した。


 その様子を見たヒューイは、ため息を漏らす。


「別に今は殺しませんよ。今殺したら、荷物持ちがいなくなってしまいますから」


 ヒューイの言葉に、ゲリアはほっとする。


 どうやら、ヒューイはゲリアを殺す気はないらしい。


「でも、気を許したわけではないですからね。遅れたりしたら殺しますよ」


 ヒューイは、ゲリアを睨む。


「……ヒューイちゃん、シルメちゃんたちと比べたら警戒心が強いよね」


 ゲリアは、無理やり笑った。


 せめて場を和まそう、と思ったのだ。


「あの二人が、警戒心がなさすぎるんです。ほら、その荷物を少し持ちますよ」


ヒューイは、ゲリアのほうに手を伸ばす。そして、ゲリアの荷物を少し持ってくれた。その優しさに、ゲリアは眼をしばたかせる。


「どうしたんですか?」


「いや……ヒューイちゃんが俺に優しいのって以外だなって」


 ゲリアの言葉に、ヒューイは唇を尖らせる。


 どうやら、ゲリアの言葉が不服だったらしい。


「別に優しくしたいわけじゃないんです。ただ、私も早く村に行きたいだけですよ」


 ヒューイは、そう言った。


 その声には、少しの不安があった。


「ユーファちゃん、無事だといいね」


 ゲリアは、そう話しかける。


 ヒューイもユーファを心配していると思ったのだ。彼ら三人は幼馴染だというし、仲がよいことはゲリアも知っていた。


「……」


 ヒューイは、少しばかり黙った。


 そして、ゲリアから視線をずらす。


「無事に決まっています。あなたに心配されるいわれはありません」


 そのまま、ヒューイは山を下り始める。


 ゲリアは慌てて、その後を追った。


「ヒューイちゃん、ちょっと待ってよ」


 ヒューイを追いかけるゲリアは、足を滑らせる。荷物を落とすことはなかったが、派手に尻もちをついてしまった。


「あなたは山歩きに慣れていないんですか?」


 ヒューイは、ゲリアに尋ねた。


 ゲリアは、笑いながら答える。


「都会育ちだからね。ヒューイちゃんだって、そうでしょう」


「私は、山育ちです」


 あっさりとヒューイは言う。


 その言葉に、ゲリアは驚いた。


「えっ。なんか喋り方が丁寧だったから、王都育ちだと思っていたけど……」


「よく言われます。たしか、シルメ君も田舎出身のはずですよ。私たちのなかで、生粋の王都育ちなのはユーファ君ぐらいじゃないですかね」


 そうなんだ、とゲリアは呟く。


「生まれも育ちも違う人たちが集まっているなんて、なんか素敵だね」


 ゲリアの言葉に、ヒューイは頭を振った。


「そうとも思えませんけどね」


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