第55話

 ヒューイとシルメは、それぞれ武器を抜く。


 ゲリアは、その光景に息を飲んだ。自分が切られる、と思ったからだ。


「えっ……俺、別に敵意とかないよ」


 ゲリアの言葉に、シルメは首を振る。


「俺たち以外の気配がするんだよ。ゲリア、悪いけど後ろに下がっていてくれるかい?うん、危ないかもしれないからね」


 ゲリアは、言われたとおりに素早くシルメの後ろに隠れた。


「あら、気が付いたんですね」


 木の上から、リアが降ってくる。


 ゲリアは、リアを見て悲鳴を漏らした。


「あっ、あれが俺を襲ってきた女の子だよ」


 リアは、ゲリアを襲ったときの剣を持っていなかった。それどころか、武器らしい武器を持っていないようにも見える。


「あなたたち、剣と槍の達人の弟子ですね。魔法使いの弟子は、どこですか?」


 リアの言葉に、シルメは答える。


「君に答える筋合いはないよ」


 シルメは武器を抜き、それをかかげた。


ヒューイも、それに倣う。


「ヒューイは、ゲリアを守っていて」


 その言葉に、ヒューイは無言でうなずいた。


 シルメは、リアに向かって剣を振るう。だが、剣はリアに当たる前に止まった。ヒューイは、その光景に目を見開く。


「どうなっているんですか?」


「つ……これは糸?」


 シルメは、目の前で起きたことを呟く。シルメの剣は、何十にもはられた糸に止められていた。その糸の一本が軌道を変えて、シルメの首に巻きつこうとする。


シルメは咄嗟に剣で、首に巻きついた糸を切る。糸が触れた皮膚が切れて、シルメは流れ出る血を拳でぬぐった。


「変わった武器だね。王都にいたときも見たことがないよ」


「私の家系に伝わる武器です」

 

 リアは、そう語った。


 糸はシルメの剣に巻き付き、動きを拘束しようとした。だが、シルメはその糸を力ずくで引きちぎった。


「シルメちゃん……相変わらず強いのね」


 ゲリアは、ヒューイの後ろに隠れながらもそう呟いた。ゲリアの目には、シルメはさほど苦戦していないように思える。だが、ヒューイは首を振る。


「あまりよろしくないですね。あの手の相手は、シルメ君が苦手なタイプです。そもそもシルメ君は、女性に本気を出せないタイプですし」


 ヒューイはそう言うが、ゲリアの目にはシルメが苦戦しているようには見えない。


だが、次の瞬間にシルメの頭上に矢が降ってきた。それは一本だけではなく、雨のように降り注ぐ。シルメは、それを後方に下がることで避けた。


「新手ですね」


 ヒューイは、冷静に呟いた。


「シルメ君、弓使いがいますよ。気を付けてください。……こういう相手は、本当はユーファ君が得意なんですけどね」


「俺を呼んだか?」


 ユーファの声が響き、ヒューイは驚いた。


見れば、ユーファが家から出ている。ツリーハウスのドアの前で腕を組む、ユーファ。


「あなたは休んでいてください!」


 ヒューイは、叫んだ。


 だが、ユーファはにやりと笑った。そして、本を開く。


「風の力をここに示せ」


 暴風が吹き荒れ、砂埃が舞う。


ヒューイは思わず、目を守った。突如現れた突風によって、跳んできた矢は風にあおられて目標を見失う。


「矢を飛んできたのは……南だな。風の力をここに示せ」


 風の刃、かまいたちがユーファの指さした方向に飛んでいく。


 それによって、藪に隠れていた少年が飛び出してきた。


弓を持った少年は、無言で弓をひく。ヒューイは、素早くその少年に向かった。弓使いは、遠距離攻撃でその威力を最大限に発揮する。距離を詰められた弓使いの少年は、特技を封殺されたも同じだった。


 ヒューイは、槍で少年の弓をはじく。


 少年は、無表情で腰につけていた剣を抜いた。ヒューイは、その剣もはじく。どうやら、少年は弓ほど剣が得意ではないらしい。シルメの方を見ると、彼もリアを制していた。どうやら力技で糸を剣で絡み取り、動きを拘束していたらしい。


「王は、どうして私たちを殺そうとしているのですか?」


 ヒューイは、弓使いの少年に尋ねた。


 槍使いの少年は、何も答えなかった。ヒューイは、弓使いの少年の喉に槍を向ける。そのまま、少年の喉をつらぬくつもりだった。


「私たちは王にゲリアを殺して、魔法使いを連れてこいと言われただけです。キールを拷問しても無駄ですよ。彼は、喋りませんから」


 シルメと対峙していたリアが、口を開く。


「魔法使い……ユーファのこと?どうして、王はユーファを欲しがるんだい」


 シルメは、首をかしげていた。


「私は、そんなこと知らないです」


 リアが、懐から小さな丸いものを取り出す。


そして、それを地面に叩きつけた。途端に煙が立ち込めて、シルメとヒューイはそれぞれの敵から距離を取る。煙がはれるとすでに敵の姿はなくなっていた。


「逃げ足が速いですね」


 ヒューイは、ため息をついた。


「でも、逃げてくれて助かったよ。王が、ユーファを狙っているというのも分かったし」


 シルメは、剣を鞘に納めた。


「どうして、ユーファを狙っているのかは分からないけど。ユーファ、なにか思い当たることはあるかい?……ユーファ!」


 シルメが、大声を上げた。さっきまで気丈にふるまっていたユーファが、倒れていたのだ。シルメは、大慌てでユーファの元に向かう。


「ユーファちゃん、大丈夫?」


 ゲリアも、ユーファに駆け寄った。ユーファは声掛けにも反応せず、顔を赤くしている。呼吸も荒い。額に手を当てると、彼女の熱は高かった。


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