第52話

 城から離れたゲリアは、まずは家に帰ろうと思った。


数か月間も留守にしていた家は、埃っぽい。だが、家に帰ったゲリアはほっとした。もうこれで、慣れない山道を歩かなくてすむと考えたのだ。


「ユーファちゃんたち……大丈夫かな」


 三人は、竜を倒せるほどの手練れだった。王がどんな人間を送ったかは分からないが、簡単にはやられないだろう。むしろ、返り討ちにしているかもしれない。


ゲリアは、そう考えるようにした。そう考えなければ、自分が三人に悪いことをしたように思ってしまうのだ。


「いや、俺だって殺されかけたしね……」


 それでも悪いと思ってしまうのは、三人が悪人ではないと分かっているからだ。特にユーファは、近くの村のために自分の近くに竜を呼び寄せた。そのせいで、ゲリアは死にかけたが。


 それに、今更心配したところでゲリアができることはない。


 ゲリアはベットに横になり、目を閉じることにした。


 だが、すぐに「がちゃり」という音でゲリアは物音で飛び起きた。


「な……なに」


 部屋の奥から聞こえてくる、明らかに人がいる気配。その気配に、ゲリアは怯えた。だが、一体何が起きているのかゲリアは見届けなければならない。


起き上がり、ゲリアは物音がした方向に歩き出す。


 そして、さっきまで見えなかった部屋の隅を確認する。


「あら、見つかっちゃった?」


 そこにいたのは、小柄な女性だった。


 小さな体をさらに縮こませて、部屋の隅に隠れていたのだ。


「あなたに、王命が下されましたよ。死んでください」


 女性は、にっこりと笑ってそう言った。


ゲリアは、その言葉の意味が一瞬理解できなかった。茫然としている間に、小柄な女性は剣を抜く。そして、ゲリアに切りかかった。


 ゲリアは、咄嗟にそれを避けようとする。


だが、避けきれない。


ゲリアの胸に、剣が突き立てられる。しかし、それは深くは刺さらなかった。


「ありゃ……この硬いのはなんでしょう?」


 首をかしげる、女性。その隙に、ゲリアは力任せに女性をはねのけた。


 ゲリアは自分の胸をまさぐると、服から小型の刃物が落ちた。旅の時に使用していた剣であり、回収し忘れていたものである。旅の最中には使うことはなかったが、今はこれのおかげで命拾いした。


「にげ……逃げないと」


 ゲリアは立ち上がって、逃げ出そうとする。


 だが、すぐに女性は剣を構えなおした。


「運は良いようですね。でも、それもそれまでです」


 剣が、もう一回くる。


 ゲリアは、懐に入れていた剣を取りだした。それで、ゲリアはそれを自分の剣を受け止める。かきん、と金属と金属が触れ合う音がする。


「ここは一般市民の家だよ。住所とか間違っているんじゃないの?」


 剣を受け止めながら、ゲリアは尋ねる。


 小柄な女性は、笑っていた。


「私は、リア。間違いなんて犯しませんよ。あなたは、殺されるべき存在です」


 ゲリアは、目をしばたかせる。


「殺されるべき存在って……」


 リアの言葉で、ゲリアは自分が国王の邪魔になったのだと察した。暗殺者を差し向けられるほどに。


 ならば、もう逃げるしかない。


 ゲリアは渾身の力を振り絞って、リアに体当たりをした。


 油断していたらしいリアは、その体当たりを受けて後ろに倒れた。ゲリアは、その隙に家か飛び出した。


 家を飛び出したゲリアは、息を切らしながらも山へと走った。


 ゲリアを襲ったリアは、王がゲリアの暗殺を命令したと言っていた。おそらくは、あの三人を見つけたからなのであろう。リアは何とか隙をみて逃げ出すことができたが、ゲリアが王都にいる限りは暗殺者が差し向けられることだろう。


 冗談ではない。


 ゲリアは、ただの文官である。


 暗殺者を差し向けられて、無事でいる自信などない。そんなゲリアの頭に浮かんだのは、森で出会った三人のことだった。ゲリアは、再び三人と合流しようと考えたのだ。


ヒューイはゲリアを敵視していたが、シルメとユーファには話が通じそうだった。特にユーファには、一晩付きっきりで看病をしたという恩もあった。助けてくれるかもしれない、と思ったのだ。

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