第53話

 ヒューイが目覚めた時、そこは見知った家の天井があった。


驚いて起き上がると、隣にはユーファがいた。そのことに、ヒューイは驚く。自分はゲリアを殺そうとして、シルメに止められて気絶させられてしまったはずである。


「よう、ヒューイ。長い気絶だったな」


 ユーファは、悪い顔でにやにや笑う。


 すでに、彼女は着替えていた。きっと自分が気絶している間に、シルメが包帯を替えて着替えさせたのだろう。自分のことといい、ユーファのことといい、相変わらずシルメは面倒見がよい男だとヒューイは思った。


「……私は、外で気絶していたはずですけど」


 視線をユーファから外すと、壁に愛用の槍が立てかけてあるのを見つけた。なんとなく、ヒューイはそれを取る。敵がいないことは分かっていたが、手に持っていたほうが安心できた。


「シルメが、気絶していたお前をここに運んだんだぜ」


 相変わらず力が強いよな、とユーファは呟く。


 ヒューイは、ため息をついた。


 幼い頃から何度もヒューイは、シルメと練習試合で戦ってきた。だが、一度もシルメに勝てたことがない。それを、ヒューイは悔しいと思う。だが、そこで拗ねていられるほど子供でもない。


「シルメ君は、今はどこにいるんですか?」


 ヒューイは、ユーファに尋ねた。


「シルメは、外で竜に死体を見ているぞ。売れる部分を探して、持っていくんだとよ」


 ユーファの言葉に、ヒューイは立ち上がる。


「どこにいくんだ?」


 ユーファは尋ねる。


「外に……。シルメ君のことを手伝ってきます」


 ヒューイは、そう言った。


 外に出ると家の近くで、シルメが竜の解体していた。愛用の剣を血で真っ赤にさせながら、シルメは竜の解体に集中していた。


「シルメ君。手伝いますよ」


 ヒューイは、シルメにそう声をかけた。


 血まみれになっていたシルメは、ヒューイのほうを振り向く。シルメは、優しげに微笑んだ。


「助かるよ。この竜が大きすぎて、一人だと解体が大変だったんだ。うん、大変だ」


 ヒューイは、シルメが解体していた竜の死体を見た。分厚い鱗をはぎ取って、金になりそうな内臓を腑分けしている。ヒューイは、竜の爪を張り取ることにした。


「これから、どうします?」


 竜を解体しながら、ヒューイは尋ねる。


「解体が終わったら、ユーファを連れて逃げるよ。ユーファを医者にも見せたいしね」


 今解体している竜は、その時の医療費にするつもりなのだろうか。竜の死骸は高く売れるし、金を稼ぐにはうってつけであろう。竜を解体しながら、シルメはぼそりと呟く。


「医者に見せたら、ユーファは間違いなく安静を言い渡される。だけど、安静にさせてあげられないかもそれない」


 ユーファはけろりとしているが、火傷が重症なことは間違いない。医者に見せなければ、今後の活動に支障が生じるかもしれない。


そして同時に、取り逃したゲリアが王にどのような報告をしているかも気になった。もしかしたら、追っ手を差し向けられるかもしれない。そう考えれば、ユーファが安静にして治療している時間がとれないかもしれない。ヒューイは、少しばかり不安になる。


「……それでも、シルメ君は殺人に反対なんですよね」


「うん、そうだよ。殺すのは、反対」


 ヒューイは、ため息をついた。


「シルメ君は、甘すぎます」


「君たちに人殺しになってほしくないだけだよ」


 シルメは、笑顔でいう。


 ヒューイは、そんなことはどうでもいいのにと思う。どうせ、ヒューイは元は盗賊だ。殺人など数えきれないほど犯している。シルメやユーファの大切な人でさせ、ヒューイが殺してしまっている。二人は、それを知らないが。


「うん、これぐらいでいいかな。ヒューイ、荷物を纏めよう」


 シルメの言葉に、ヒューイは頷く。


 だが、遠くから人の声が聞こえてきた。ヒューイはそれに反応し、槍を構える。


「ヒューイ、どうしたんだい?」


「誰か、来るようです」


 ヒューイが、目を細める。


 遠くで、人の姿が見えた。ヒューイが見逃すことになったゲリアが、こちらに向かって走ってくるのだ。


「シルメちゃん、ヒューイちゃん。お願い、助けて!」


 その声を聞いて、シルメは立ち上がる。


「あれは……ゲリア?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る