第50話


ある日、ユーファはヒューイに声をかけられた。


その要件は、魔法発動に使う本を貸してほしいというものだった。魔法を発動させるための本は、魔法使いにとってはとても大切なものだ。他人に貸せるものではない。


ヒューイは、魔法に興味が出たと言っていた。


それだけで貸せるほど本は安いものではないのだが、ユーファはヒューイに頼られることがうれしかった。昔の関係に戻れたような気がしたのだ。


ユーファは、ヒューイの反抗期が終わったのかと思った。


そして、それと同時に魔法に興味を持ってくれたことも嬉しかった。ユーファにとって魔法は、人生のようなものになっていた。そしてヒューイが魔法に興味を持ってくれれば、自分がヒューイの魔法の師匠になれると思ったのだ。


それが嬉しくなって、ユーファはヒューイに本を貸してしまった。身を守る本がないないと、どこか頼りない気分になった。


その日の晩に、城に火が付いたのが見えた。


城で何かが起こっていることは、明らかであった。すでに、城にはリゼリザが行っている。だが、ユーファはいても立ってもいられなかった。


ユーファは、取るものもとらずに城に向かった。


城には、見覚えのない大勢の輩が侵入していた。城は、今までにない混乱に陥っていた。ユーファは城の中に入ると、その混乱ぶりに息を飲んだ。城を守るための兵士たちでさえ、城から逃げ出そうとしている者もいた。


「シルメとヒューイも、きているかしら……」


 だとしたら、合流したい。


 三人一緒になれば、きっと最強のはずだ。


 ユーファがそう思っていると、兵士の一人が彼女に声をかけた。


「ユーファ様ですか、魔法使いの?」


 兵士はユーファに、そう声をかけた。


 ユーファは、その声を救いだと思った。


城には、リゼリザについて何度か入っている。きっと兵士は、その時の顔を合わせた相手なのだろう。


「ヒューイを見なかった?彼が、私の本を持っているの」


 兵士は、首を振った。


 顔までを隠す鎧のせいで、表情はよく分からなかった。だが、ユーファの存在に困惑しているようだった。


「見ていません。でも、ここは危険です」


 ユーファは、兵士に手をひかれる。その手は力強くて、ユーファは転びそうになった。だが、ユーファは声を出さなかった。


城のいたるところに、敵がいた。兵士も剣を抜いてそれに対応したが、敵に押し切られそうになっていた。ユーファも本がなくても使える魔法でサポートがしたが、本がない状態では使える魔法などたかが知れている。二人は、地下へと逃げた。


「これじゃあ……ヒューイのところにも、王のところにもいけない」


 ユーファは、どうするべきかを考えた。


 だが、良い考えは浮かばない。


 地下は、牢になっている。今は使われていないために、地下牢に埃がたまっていた。ここには敵も味方もいないが、敵に発見されるのは時間の問題だろう。


「もう……ダメだ。この城はだめだ」


 兵士は、震えていた。


大量に現れた敵に、彼は恐れをなしていた。ユーファは、仕方あるまいと思った。ユーファもここまで大勢の敵に囲まれたことはない。


 ユーファは、城で戦っているだろう師匠たちとシルメやヒューイのことを思った。彼らが負けるとは思えなかったが、かつてない混乱はユーファの不安をあおった。


この戦いは、誰が起こしているのか。


王は無事なのか。


王が無事だとしても、シルメやヒューイたちが倒されてしまうのではないだろうか。不安はあるが、今のユーファでは何もできない。それが歯がゆい。


「ユーファ様!」


 兵士が突如、ユーファに伸し掛かった。


 ユーファは、それに目を丸くする。彼女は、異性に伸し掛かれたことなどなかった。それが、どういう意味なのかもよく分かっていなかった。


 男は押し倒したユーファの服を破き、肌を舐める。兵士の息は荒く「もう、終わりだ。この城はもう終わりだ」と呟いていた。そこまでいって、ユーファはようやく自分の身に何が起こっているのかを理解した。


自分は、男に襲われている。兵士は今の状態に絶望し、ユーファ相手に最後の欲望を発散させようとしているらしい。


 ユーファは魔法を使って、男を遠ざけようとした。だが、今のユーファは本を持っていない。攻撃的な魔法の発動はできず、発動できてもそれは兵士の退けるにはいたらなかった。下肢の衣類が脱がされ、兵士の欲望がユーファのなかに突き立てられる。


 ユーファは、悲鳴を上げた。


 痛みで何も考えられず、魔法の発動もできなくなる。男が力任せで、ユーファを床に押し付ける。ユーファは泣きながら、リゼリザやギザに助けを求めた。だが、助けを求めた人は誰も助けてくれなかった。


 ユーファを助けてくれたのは、シルメだった。


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