第49話


 ある日、ユーファはリゼリザに呼ばれた。


将来の話がある、と言われたのだ。


リゼリザは、自分の仕事を将来的にユーファに継がせると告げた。仕事とは、王の護衛のことだ。そして、後進を育てることも仕事に含まれていた。


魔法を次世代に伝え、国を守ること。それが、ユーファのやるべき仕事となった。リゼリザは、それと同時にユーファとシルメの婚約を内々に取り決めたいと話した。


「シルメとですか……」


 いきなりの話に、ユーファは少し驚いた。


 婚約の話がでるには、ユーファは自分が子供過ぎると思ったのだ。


「シルメが、思ったより早く一人前になりそうなんだ。だからこそ、『今』婚約の話をしたんだ」


 リゼリザは、そう言った。


 ユーファは「なるほど」と思った。ギザの元で修行しているシルメは水があったのか、めきめきと腕を上げているという。きっと、ギザの後継者となる日も近いであろう。


「……シルメが一人前になったら、結婚相手をちゃんと選べると思いますけど」


 シルメは、自分のことを妹のようにしか思っていない。自分も、シルメを兄のようにしか思っていない。ならば、もう少し大人になってから別の伴侶を探した方がいいのではないかと思った。


「シルメだったら、君がピンチになっても助けることができる」


 リゼリザは、婚約の理由をそう語った。


 この婚約は、ユーファのためのものだった。


「……僕たちも、いつかは助けられなくなるからね」


「リゼリザ様は、いつだって最強です」


 ユーファは、未だに師匠を超えることができない。


 リゼリザは、どの魔法使いよりも強い魔力を持っていた。


「それでも、いつかは老いる。それに僕自身は、戦闘に向いているとは言えないしね」


 ユーファには、そんな日は永遠に来ないような気がした。


 ユーファのなかでは、リゼリザはいつまでも最強のままだった。


「シルメとの婚約の件は、了承しました。けど、シルメが嫌がったら解消します」


 シルメとの婚約は、嫌ではない。


 兄としてしか見れないが、彼以外の異性と付き合いのは面倒だった。一度シルメが彼の友達を連れてきたことがあったが、その時からユーファは異性との付き合いを厭うようになっていた。


「シルメは、断らないと思わないよ。君を可愛がっているしね」


 リゼリザは、そう言った。


 そして、シルメはリゼリザが想像した通りの答えを出した。こうしてユーファは内々ではあったが、シルメの婚約者になった。だからといって、二人の関係性は全く変わらなかったが。


 そんな日々のなかで、変化があった。


 ローウェイという槍の達人が、男の子を連れてきたのだ。その子は酷く汚れていて、周囲を警戒していた。まるで野良猫のようだ、とユーファは思った。それと同時に、ユーファはシルメの気持ちが少しわかった。

 

 ヒューイという少年を、ユーファは弟のように思った。保護欲がわいたのだ。自分よりも年下の子の相手をすることは、初めてだったからなのかもしれない。


 シルメも、ヒューイを弟のように可愛がった。


 特にシルメの可愛がり方は堂に入っており、彼が兄弟の多い家出身だということを納得させられた。ヒューイが槍の腕を上げていくと、シルメやユーファと手合わせする機会が増えた。それによって、三人は益々一緒にいる時間が増えた。


 その一方で、ユーファはシルメに女性扱いされることが増えた。特別なことは言われなかったが、気軽に脱ぐなと注意されたりするようになった。


ユーファにも常識がある。シルメに注意されているときは、大抵の場合は自分が悪いことは分かっていた。だが、どうにも腑に落ちない。


ユーファは、自分が女であることを少し煩わしく思うようになった。女であることよりも、魔法使いでありたかった、シルメやヒューイの友人でありたかった。


そんな自分をユーファは、少し疑問に思った。


自分は、いつかはシルメの妻になるはずである。だが、今のユーファは女であることすら不満に思ってしまう。こんなことで自分は大丈夫なのか、と。


そんななかで、ユーファはとある事件を聞いた。


その事件のあらましは、ギザが語ってくれた。


リシャが、王都を追放されたという話だった。なんでもリシャは王の座を狙ったが失敗し、遠い辺境に投獄されることになったのだ。これで、リシャは王都に戻ってこれなくなった。その話を聞いたユーファは、どこかでほっとした。


これで、もうリシャに怯える必要はなかった。


リシャの運送の護衛についたのは、何も知らされていないヒューイだった。ヒューイの他にも、何人かのローウェイ弟子が一緒に行くことになった。


だが、ヒューイ以外の弟子たちは護衛の任務の最中に賊に殺されてしまった。ヒューイは無事に戻ってきたので、ユーファは安心した。


だが、戻ってきたヒューイはどこか変わってしまっていた。


今まで兄弟のように接していたのに、ヒューイはユーファやシルメにどこか一線をひくようになってしまったのだ。


変わってしまったヒューイに、ユーファは少し戸惑った。


そのことをリゼリザに相談すると、ヒューイは遅い思春期を迎えたのだろうと言われた。子供の成長には必要なことだと言われ、ユーファは納得しなければならなかった。


ヒューイに距離を置かれるようになったユーファは、寂しい思いをするようになった。だが、今のヒューイの状態が成長に必要なことと言われればしょうがない。


その一方で、シルメはいつも通りにユーファに接してくれた。彼とは正式に婚約することになったが、それでもシルメはユーファに接する態度を変えなかった。ユーファも、態度を変えることができなかった。もう大人の男と女だというのに。


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