第46話

リシャは、それからもたびたびユーファの元に訪れた。それはギザを伴っているときもあったが、リシャ一人で訪れるときもあった。


リシャ一人で訪れるときには、ユーファに土産の本を持ってきた。その本は魔法関係のものであり、リシャがユーファに魔法使いの道に進んでほしいという思いが見て取れた。


 だが、ユーファはリシャに心を開くには至らなかった。


 彼は、自分の身分を名乗らない。


 おかげでユーファは、リシャの本名しかしらない。高貴な身分だとは聞いているが、一体どんな身分なのかは分からない。それでも、リシャの態度は紳士的なものだった。


 ユーファが、リシャの本性を知りたいと思った。


 だが、ユーファには自由がなかった。


「どうして、私の元に訪れるの?」


 ユーファは、リシャにそう尋ねた。


 自分の元を訪ねてくるのは、シルメとギザぐらいだ。シルメは仕事で、ギザは大人だからまだわかる。だが、リシャは他人で同い年ぐらいの子供だ。ユーファの元を訪れる理由が分からない。


 リシャは、微笑む。


「君が可哀そうだからだよ」

 

 リシャは微笑んだ。


 ユーファは、その言葉にむかむかした。ユーファは、自分が可哀そうだと思ったことはない。勝手に可哀そうだと思われることには不満があった。


 ユーファには、本からまなんだ学があった。


 少ないが尋ねてくれる人がいた。


 憐れまれるような人生ではなかった。


 ユーファは、リシャを見返してやりたいと思った。


 ユーファは魔法について、積極的に学んだ。だが、師匠がいないユーファには、実際に魔法を使うことは不可能だった。


「どうしてリシャは、私に魔法使いになってほしいのかしら」


 学んで知ったことだが、魔法使いは少ないらしい。


魔法使いが少ないのは、才能ある子供が少ないからだ。ユーファが禁忌の子として閉じ込められながらも殺されなかったのも、数少ない魔力の持ちであったからだった。


 そんな中で、ユーファはリザリザという魔法使いを紹介された。


リザリザも、ユーファの親類であった。後から知ったことだが、盲目のリザリザは国で一番の魔力を持っていた。だが、それでも不死になるという企みには届かなかったようだ。


ユーファは、彼も両親が兄弟なのかと疑った。だが、リゼリザの両親はごく普通の他人同士だった。


不死になるほどの高い魔力を持つことを望まれたユーファよりも、高い魔力を持つリゼリザ。理不尽のような天才が、彼だった。だが、そんなリゼリザですら不死には届かない。


ユーファは、人は不死には届かないのかもしれないと思った。


ユーファは、リゼリザの弟子になった。


リゼリザの弟子となってから、ユーファはその思いを益々強くした。魔法は超常的な力を行使するが、その力の多くは自然から借り受けることが多い。不死とは、自然に逆らう行為である。実現できるはずがない。


リゼリザの弟子となったユーファは、同時に彼の養女ともなった。リゼリザの弟子となったユーファは、自由になった。外に自由に出れるようになったが、それをするためにはユーファの足はあまりにも衰えていた。リゼリザの養女になってユーファが初めてやったことは、自身の足を鍛えることであった。


足を鍛え、自由に走れるようになるとようやくユーファの世界は広がった。ユーファは、木の登るのが好きになった。木に登ると自分の視野が文字通り広がるからだった。


だが、ユーファが木に登るとシルメが慌てた。


シルメは、いつかユーファが木から落ちて大怪我をすると思い込んでいた。ユーファは、そんなふうに心配するシルメのことを兄のように感じていた。シルメも、ユーファのことを妹のように思ってくれていた。


そんななかで、シルメが故郷に帰ることになった。


その期間は数か月だけだったが、ユーファは寂しい思いをした。


そんななかで、リシャが再びユーファを訪ねてきたのだ。


盲目のリゼリザは、リシャのことを歓迎しなかった。そのため、ユーファは外でリシャに会うことになった。リシャは、ユーファが魔法使いの弟子になったことを喜んでいた。


「なんのために来たの?」


 ユーファは、リシャに尋ねた。


「僕は嬉しいんだよ」


 リシャは語った。


「同じ生まれ方をした君が、魔法使いになってくれたのがうれしいんだ」


「前から思っていたけど、あなたはどうして私が魔法使いになることを望んでいるの?」


 ユーファの質問に、リシャは答えた。


「僕は、将来は不死になる」


 その言葉に、ユーファは驚いた。


「不死になるのは無理よ。私やリゼリザ様ですら、魔力が足りない。あなたならば、なおのことよ」


 リシャには、魔力がない。


 だから、リシャは不死にはなれない。


「不死の研究が始まったのは、王を不死にするためだ」


 リシャは、そう言った。


「そのために、魔力を多く持つ子供が実験的に生み出された」


「リシャ、何を言っているの?」


 ユーファは、不審に思った。


 リシャは、怪しく笑った。


「僕が、不死になるべき王だからだよ」


 その言葉に、ユーファは驚いた。


「あなたは……王子なの」


 それが本当ならば、リシャは本当に高貴な身分ということになる。


「そうだよ。そして、いつかこの国の王になる。永遠の王にね」


 ユーファは、リシャの言葉を恐れた。


「……あなたは、不死にはなれないわ」


「なれるさ」


 リシャの瞳には狂気があった。


 ユーファは、その狂気を恐れた。


「僕らは、不死になるべく生まれた存在だ。そして、王になるべく生まれた存在が僕だ」


 リシャは、そう語る。


 ユーファは、そんなリシャから逃げようとした。だが、リシャはユーファの手を握る。それだけで、ユーファは動けなくなった。


「僕は、いつか王になる」


「あなたは、王になんてなれない」


 ユーファは、そう言った。


 リシャは、それを怒ることはなかった。


「なれる。僕は、そのために生まれてきた。……そうでなければ、死んだ母の人生の意味がなくなる」


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