第43話
物心ついたときから、ユーファは屋敷に繋がれていた。
どうしてそんなふうに拘束されているのかも分からないぐらいに、繋がれるという行為はユーファにとっては当たり前のことだった。
ユーファは父の顔も、母の顔も知らない。
そもそも、そんなものがいるとすら知らなかった。彼女の世話をするのは使用人ばかりで、その使用人たちもユーファに話しかける人間は稀であった。
だが、時には変わり者もいてユーファに文字を教える者もいた。文字を教えた使用人は、何も知らないユーファを哀れに思っていたのかもしれない。使用人は、ユーファに様々なことを教えた。
文字に、人間らしい食事の仕方、挨拶などの基本的な礼儀。使用人は、そういうものをユーファに教えてくれた。そして、館の外のこともユーファに教えた。
王がおり、民がいるという王都の様子。
その話を聞いたおかげで、ユーファは世界は館の中だけだと信じ込まずにすんだ。だが、ユーファに色々なことを教えてくれた使用人はいつの間にかいなくなっていた。おそらく、ユーファに物事を教えていたのが明らかになって辞めさせられたのであろう。
物を教えてくれていた使用人がいなくなると、ユーファは本の世界に傾倒していった。自由がないユーファには、本の世界がすべてだった。
そのうち、使用人に本を買ってくるように命じると買ってくれることにも気が付いた。こうして、ユーファの本への傾倒は益々ひどくなった。
そんななかで、ユーファの館を訪れるものがあった。
ギザだった。
当時最強の剣士であった彼は、ユーファを訪ねても繋がれた様子を驚いたりはしなかった。最初からそれを知っていたかのように、ギザはユーファに接した。
「あなたは、誰?」
ユーファが尋ねるとギザは答えた。
「俺様は、ギザ。お前の親類だ」
ギザは、そう答えた。
ギザは自分を剣士だとは名乗らなかったが、その屈強な肉体はユーファに警戒しなければならない人間だという印象を抱かせた。
「今日は、お前を外に出す計画を持ってきた」
ギザの言葉の意味が、ユーファには分からなかった。
外の世界があるのは知っている。だが、なぜ外に出なければいけないのか分からない。
「お前はどうして、自分が繋がれているのか分かるか?」
ギザは、分かるはずもない質問をした。生まれたときから、ずっと拘束されていたのだ。拘束される理由なんて、分かるはずもない。
「ユーファ。お前は、不死の研究の一部として生まれたんだ」
ギザは、そう言った。
不死の意味は分かる。
死なない意味だ。
ユーファも、使用人たちもギザも、いつか死ぬ。だが、不死は死なない。だから、それは存在しない。ユーファにも、それが分かる。
「魔法使いが使う魔力は、血統によって決まる。常に魔法を展開させるためには、大量の魔力がいる。そんな魔法使いを作り出すために、許されない方法でお前が作られたんだ」
ユーファは、首をかしげる。
「魔法を常に展開させれば、不死になれるの?」
ユーファは尋ねる。不死という言葉には、現実感がない。まるで夢について語っているようだ、とユーファは思った。
「魔法使いじゃない俺にはよく分からないが、理論的にはそうらしい」
ギザの話は、どうもはっきりしない。
ギザ自身が魔法についてよく知らないことが原因だろう。
「不死になるために、私が生まれた……。なら、どうして私は繋がれているの?」
生まれて初めて、ユーファは自身の待遇を不思議に思った。
ギザは、笑う。
「許されない生まれ方をしたからさ」
許されない生まれ方とは、何なのか。
それが、ユーファの拘束に繋がっているのか。
「お前の両親は、魔力が高い家系の貴族だ。そして、お前はその貴族の兄妹から生まれた子供だ」
ギザの言葉に、ユーファはその意味を考える。
「兄妹の子は、禁忌なの?」
「ああ、神をも恐れない行為だ」
だから、ユーファはずっと館の幽閉されていたのだ。
神の目にさえもあざむけるように。
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