第42話

 大人に近くなると、シルメは誰よりも大きな肉体を得ていた。その大きな体格と巨大な剣は、シルメの表すシンボルになった。師匠のギザよりも大きくなったシルメは、ある時に師匠から自分と手合わせをするように命じられた。


 シルメは、その命を受けて師匠に立ち向かった。立ち向かった師匠は、なんだかひどく小さく感じられた。シルメは、師匠に勝ってしまった。


 シルメとギザの試合を見ていた人間は大勢いた。その全員が、シルメの勝利に驚いていた。シルメも驚いていた。だが、ギザは満足気であった。


「シルメ。お前が俺の後継者だ」


 ギザは、シルメをそう指名した。


 シルメは驚いたが、それは覆すことのできない決定事項となった。


時同じくして、ユーファもリゼリザの後継者となった。


互いに正式の将来が決まると、師匠たちは内密に二人の婚約を決めてしまった。ユーファもシルメも互いに驚いたが、相手が知っている同士なので文句はなかった。


そんななかで、ヒューイという槍使いの少年がシルメたちの日常にやってきた。


元野盗だというヒューイは、粗野な少年だった。礼儀も知らず、読み書きも知らなかった。けれども、その様はシルメに自分の幼い頃を思い起こさせた。彼を弟のようにシルメは思った。


ユーファは、ヒューイに対して初めての反応を見せた。まるで弟でもできたかのように、ヒューイのことを可愛がったのだ。もう大人として扱われてもおかしくない年齢だというのに、彼女はヒューイと一緒に風呂に入ったりした。


シルメはそれを咎めたりして、ユーファの行動を正そうとした。ユーファは不満のようだったが、ヒューイは成長し、ユーファと適切な距離を取るようになった。


代わりにシルメとの距離は、少し縮まったように感じられた。ヒューイを弟のように思っていたシルメは、それがうれしかった。


そしてヒューイは槍の修行のなかで、礼儀などを学んでいった。そして身長もどんどん伸びて行って、あっという間にユーファを追い抜いていった。それでも、ユーファはヒューイを相変わらず弟のように扱っていた。


いつしか、ヒューイはローウェイの後継と目されるようになった。


ヒューイは、才能ある男だったのだ。


そして、この頃になるとヒューイの振舞は王都で育った少年のように鮮麗されていた。血筋だけは高貴らしいユーファと並ぶと、まるで二人は貴族のような輝きを放っていた。


そんななかで、シルメとユーファに正式に結婚の話が上がるようになった。


そういう年頃になったのだ。


シルメの結婚相手として師匠のギザが選んだのは、決まっていたことだがユーファだった。シルメは、ユーファを女だと思ったこともなかった。


彼女は、守るべき妹だった。


だが、ユーファ以外に近しい女性はいなかった。シルメは、その件を了承した。


ユーファも了承したので、二人の婚約は正式に結ばれた。


「まさか、あなたと本当に夫婦になるなんてね」


 ユーファは、しみじみと語った。


 彼女もシルメを兄としてしか見ていなかったが、彼以外に親しい異性もいなかった。そのため、シルメの婚約者となることを了承したのだ。


「俺は、君を妹としか思ったことはないよ」


「私も、あなたを兄としか思ったことしかないわ」


 二人は、顔を見合わせて笑いあった。


 二人の間に、恋や愛はなかった。


 けれども、目指すべき目標は同じだった。


 それでいい、と二人は思っていた。


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