第32話

 ヒューイたちは、立ち上がれないユーファを囲んで茫然としていた。これからどうすればいいのか分からなかった。


「……ユーファ」


シルメは、静に呟く。


「……俺は、守るために剣を学んだ。……なのに、どうして人は……こんなことを」


 シルメは、悲しんでいた。


 シルメは、ヒューイと違って人を助けるために剣を学んでいた。ユーファも同じであろう。高潔な精神を持った二人の剣士と魔法使いは、守ろうとした人々に尊厳を踏みにじられた。


「ヒューイ、本を返して」


 ユーファは、ヒューイの方を見た。


 茫然としていたヒューイは、ユーファに名前を呼ばれて驚いた。ヒューイは、恐る恐る本を取り出す。


何か責められる、と思った。


ヒューイが、ユーファの本を持っていなければこんなことにはならなかったからだ。だが、ユーファはヒューイを責めなかった。


 ヒューイが本を手渡すと、ユーファはほんの少しだけ笑う。


 その笑顔が可憐で、ヒューイは泣きそうになった。


「これから、どうするつもりですか?」


 ヒューイは、ユーファに尋ねる。


「どう……すればいいかは分からないわ」


 ユーファは、首を振った。


 そのとき、上の階から声が聞こえた。ヒューイは、その声に耳を澄ませる。その声は、歓喜の声だった。


「ああ……王が倒されましたね」


 ヒューイは、呟く。


 シルメとユーファは、言葉を失った。


 ヒューイは、シルメとユーファは外に連れ出さなければならないと思った。だって、この惨劇はヒューイが起こしたようなものなのだから。


「逃げましょう」


 ヒューイは、二人に言った。


 シルメもユーファも、その言葉に茫然としていた。


「逃げるって……どこへ」


 ユーファは、尋ねる。


 ヒューイは、言いよどんだ。


 どこへ逃げるのかは、まったく考えていなかった。


「森へ逃げよう……」


 シルメは、言った。


 ヒューイは息を飲む。森へ逃げるということは、今の生活をすべて捨てるということだ。だが、ヒューイはそれもいいように思われた。


「森ならば、見つからずに生きていけます。ユーファも……」


 シルメは、ユーファに手を貸す。


大きな手は、か弱い女を守るには十分すぎるほどにたくましかった。ユーファは、無言でその手を取る。まるで、小さくて弱い少女であるかのように。


 ヒューイは、その光景を無言で見ていた。


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