第31話

 地下室には、女の甲高い悲鳴が木霊していた。


 その声に、ヒューイとシルメは警戒しながらも奥に進んだ。


 ヒューイは、持っていた槍を落とした。


 それぐらいに、ヒューイがみた光景は衝撃的だった。


地下の一番奥の地下牢のなかに、ユーファはいた。彼女は埃っぽい床に押し付けられ、その上からは粗野な男が腰を振っていた。半裸のユーファは身をよじり、男から逃げようとしていた。男の着ていた甲冑は城の兵士のもので、ユーファやシルメの味方のはずだった。


何がおこなわれているのか分からないほど、ヒューイは子供ではなかった。小さな頃に仲間たちがおこなっていたことと同じだ。人を獣に貶める行為だ。


男は暴れるユーファを押さえつけるのに一生懸命で、ヒューイたちには気が付いていない。だが、ヒューイは動けなかった。きっと男の方は、城が落とされる予感がしたのだろう。そして、自暴自棄になってユーファを襲ったに違いない。


ヒューイは、全てが自分のせいだと言われているような気がした。


師匠たちを殺さなければ、ユーファから本を奪わなければ、こんなことにはならなかったと言われているような気がした。


静に動いたのは、シルメだった。


その顔には、表情らしい表情が浮かんでいなかった。能面のような顔で、シルメは自分の剣を捨てる。そのまま、シルメは無言のまま牢屋に近づく。そして、牢を開けた。


「君は、城の兵士だよね。どうして、こんなところで、こんなことをやっているのかな?」


 シルメは大きな手で、ユーファにおおいかぶさっている男の頭を掴んだ。兵士の男を軽々と持ち上げたシルメは、そのまま男を床にたたきつけた。兵士の男は、目を丸くしてシルメを見ていた。


「私は……この国を守るために剣を学びました。ユーファも人を守るために魔法を学びました。それなのに……それなのに」


 シルメは、再び男の首を掴む。


 男は足をバタバタと暴れさせて反抗を試みるも、シルメはそんなこと気にしていないようだった。それどころか、シルメは男をもてあそぶかのように笑っていた。


 ヒューイは、背筋に冷たいものが走るのを感じた。


 それぐらいに、今のシルメは恐ろしかった。


 ごきり、と骨が砕ける音がした。


 シルメが、男の首の骨を折ったのだ。シルメは男の死体を投げ捨て、自分の剣を拾い上げる。そして、倒れたままのユーファに背を向けてシルメは尋ねた。


「ユーファ、大丈夫かい?」


 ユーファは、泣いていた。


 いつも着ているローブは引き千切られており、白い肌がいたるところから見えていた。哀れな姿に、ヒューイは自分のマントを貸そうとした。だが、マントはすでにリゼリザを殺すときに使ってしまっていた。


 どうすることもできなくなったヒューイは、そこで棒立ちになっていた。


 しばらくするとシルメが、ユーファに自分のマントをかけた。ユーファは、そのマントに縋りつく。まるで、そのマントに世界の優しさが全部詰まっているみたいに。


「……ユーファ、本はどうしたの?」


 シルメは、尋ねた。


 ユーファは、小さく答える。

 

「……ヒューイに預けていた」


 そうである。


ヒューイが本を奪っていたから、ユーファは基本的な魔法しか使えなかった。だから、城の兵士に手籠めにされたのだ。


「魔法が使えないのに、城に来たのかい?」


 シルメは、ため息をつく。


「師匠や……王が心配で」


 ユーファは、小さく呟く。


「師匠たちは、死んだよ」


 シルメは、そう言った。


 ユーファはその情報を聞いて、目をしばたかせた。


「リゼリザ様も……亡くなったの?」


「ヒューイが確認した」


 シルメは、そう言った。


 ユーファは、茫然としていた。だが、やがて事実を受け入れたのか大粒の涙をこぼした。


「嘘よ……リゼリザ様は最強の魔法使いよ。そう簡単に殺されるわけないわ」


「でも、リゼリザ様は全盲だ。潜在能力が最強でも、戦闘になれば簡単に隙をつけて殺せる」


 シルメの言葉に、ユーファは反論できないでいた。


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