第30話

 ヒューイが城のなかにいたシルメの元にやってきたとき、シルメは城に攻めてきたリシャの仲間と応戦していた。


シルメは、強い。


ヒューイよりも、ずっと強い男だ。だが、いくら強くとも数の暴力で押されてしまれば敵わない。シルメは王が住まう城に、リシャの仲間を入れてしまっていた。


 おそらくは、リシャはガラの悪い盗賊たちも仲間にしたのだろう。武器の扱いに長けた身なりの悪い人間が紛れ込んでいた。

 

「ヒューイ、ちょうどいい!師匠たちを呼んできてくれ。俺一人では、食い止めきれないんだよ!!」


 シルメは、叫んだ。


 ヒューイは、それに答える。


「……師匠たちは、全員が死にましたよ」


 ヒューイの言葉に、シルメは茫然とした。


「全員って、ギザ様もかい?」


 ヒューイは、頷く。


「まさか……あの人が殺されたなんて。……一体、誰に」


 シルメの声には、わずかに殺意が混ざっていた。だが、それ以上に悲しみが混ざっている。ヒューイは、自分が殺したとは言えなかった。


「おそらくは……賊が」


「あの人たちを賊が殺した!?信じられない」


 シルメはそう呟いたが、はっとする。


「あの人たちが死んだとなると、王は?今、王は誰が守っているんだ?」


「誰も……」


 ヒューイの言葉に、シルメは大剣を握りなおす。


「ユーファは、どこだ?」


 シルメは、そう言った。


「城には、来ないはずです」


 ヒューイの言葉に、シルメは驚く。


「来ないって、どういうことだい?」


「本が……」


 そう言いかけとき、悲鳴が聞こえた。


 女の悲鳴――ユーファのものだった。


 その悲鳴に、ヒューイは驚いた。


 ユーファの本は、没収してある。彼女は、戦えないはずである。なのに、ユーファは城に来たのだ。


「ヒューイ、今のは……」


「ユーファ君の声でした」


 シルメとヒューイは、そろって悲鳴がしたほうへと走った。


 リシャの仲間たちは城のいたるところに入り込んでいて、今にも占領させれそうだった。城の兵士たちも戦っていたが、リシャの仲間たちは数も多く押されている。


 この城は終わりなのかもしれない、とヒューイは思った。


「ヒューイ、城下町が燃えている……」


 窓をのぞいたシルメが、呟いた。


 その言葉通り、街のいたるところが燃えていた。


 街で、暴動が起きているのだ。あるいはリシャの仲間の盗賊が、街に火をつけたのかもしれない。


「……この国は、もうだめかもしれない」


 シルメの言葉は、ヒューイの思いでもあった。


 王を守る達人はいない。


 城は、今にも落ちそうだ。


「ヒューイ」


 シルメは、ヒューイを真剣な表情で見つめた。


「ユーファと合流できたら、この城からすぐに逃げてくれ。うん、二人で逃げてくれ」


「シルメ君は、どうするんです?」


 ヒューイの質問に、シルメは優しい笑顔で答えた。


 そして、シルメはいつかのようにヒューイの頭をなでる。


「俺は……ここで守るよ」


 何を守るのかは、言わなかった。


 ヒューイは、それに唇を噛む。


「……ユーファ君のことは、守らないのですか?」


 そのことに、シルメは眼を丸くした。


「ユーファは、魔法使いだよ。自分の身は自分で守れるよ」


 ヒューイは拳を握る。


「あなたが……あなたは、ユーファ君の婚約者でしょう。あなたたちがそうだから……私は」


 ヒューイは、言葉が詰まって最後まで言い切ることができなかった。


「ヒューイ……また悲鳴が聞こえる。ユーファの声だ」


 その声は、地下から聞こえてきた。


 地下には、地下牢しかないはずである。


「ユーファは、どうして地下に……」


 シルメは、そう呟く。


 ヒューイも、どうして地下牢からユーファの声がするのか分からなかった。


 シルメとヒューイは、地下室へと向かう。


 城には地下牢があるが、それは昔の話だ。今はもう使われていない施設だから、そこは足を踏み入れるだけで埃臭いにおいがした。ヒューイは、思わずそれに顔をしかめる。


「ここに、ユーファがいるのでしょうか?」


 ヒューイとシルメは、二人で地下牢の奥へと向かった。


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