第26話

 リシャは、盗賊に襲われて死んだとヒューイは報告した。ヒューイ以外に生き残りはいなかったので、いぶかしむものはいなかった。


「ヒューイ、大丈夫?あなた以外の人間が全員死んだって聞いたわよ」


 ユーファが、仕事の一件を心配して顔を見に来てくれた。


「ええ。私は、怪我などはしません」


 そう伝えると、ユーファは頬を緩めた。


「そう、よかったわ。あなたがしくじるなんて珍しいから、心配していたのよ」


 ユーファの顔は、姉のようだった。


実際、ヒューイとユーファの間には一年の歳の差がある。ユーファの方が、わずかに年かさだ。だから、なのかもしれない。彼女が、姉のように見えたのは。


「別に、心配されるようなことなんてありませんでした」


 それどころか、全てを裏切る算段をしていた。


「ユーファ君、あなたは現王のことをどう思っていますか?」


 ヒューイの質問に、ユーファは首をかしげる。


「どうして、そんなことを聞くの?」


「ただ聞いてみたいだけです」


 ユーファは、少し悩んで答えた。


「仕えるべき、お方よ。師匠が亡くなれば、次は私が。現王が亡くなれば、次の王に」


「そうですか。そうですよね」


 ヒューイは、ユーファに背を向けた。


 そのヒューイの様子に、ユーファはいぶかしむ。

 

「ヒューイ、何か悩みがあるならば聞くわよ」


 背中に、ユーファの声がかけられる。


 ヒューイは、その声に答えなかった。


 そのまま、ユーファの側を離れるつもりだった。だが、その前にシルメが彼らの元にやってきた。


「ユーファ、ヒューイ!大変だよ。第二王子が!!」


 走ってきたシルメは、第二王子が毒に倒れたことを知らせた。


 その報告に、ユーファは驚いていた。


「毒って、どんな毒なの?」


 ユーファの疑問に、シルメは首を振る。


「そこまでは……。ただ、危ない状態だとは聞いているよ」


 ヒューイは、その毒はリシャの仲間が仕込んだのではないだろうかと思った。そうだとしたら、リシャの王権簒奪の計画は着実に進んでいることになる。


「師匠たちは、王の守りを固めると思うわ。私たちも準備をしないと」


 ユーファは、そう言って駆け出した。


 きっと間魔法使いの本を持って、自分の師匠も元へ走ったのだろう。


「ヒューイ、俺たちも行こうね」


 シルメは、ヒューイにそう言った。


 なにか、時代が動く気配がした。


 ヒューイは、それが王権簒奪の始まりだと思った。


「シルメ君」


 ヒューイは、シルメを呼んだ。


 シルメは、振り向く。


「どうしたんだい?」


「君は……そのユーファ君を最後まで守る気はありますか?」


 ヒューイの疑問に、シルメは疑問符を浮かべながら答える。


「ユーファは、守る必要なんてないよ。だって、彼女は強いから。うん、彼女は強いよ」


 そういうことではない、とヒューイは言いたかった。


 だが、適切な言葉が見つからない。


 言いよどむヒューイに、シルメは微笑みかけた。


「大丈夫だよ。ユーファは、強いから」


 シルメは、そう言った。


いつだって、シルメは優しい。兄のようだと思う。二歳だけ年上の他人だというのに。


 いつだって、そうだ。


「よしよし」


 シルメは、ヒューイの頭をなでた。


 その優しい温もりは、ヒューイにとってひどく懐かしいものだった。




 第二王子が死んだと聞かされたのは、それから数日後のことだった。


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