む-や みだりに

 パープルの山陰から現れた音刃いんしんは迂闊、わたしは這い回るものと一緒に山中に潜んでいた。

――なわ、なわ。ほでろ。ほでろぅん。

 這い回るものは何を言っているか分からん。ただ、隠れた方がいいと小刻みに震えている。

 つつけば大騒ぎして、やはり音刃に切り刻まれて黄土色の体液をぶち撒ける。


 わたしは歩かなきゃ間に合わないのに、

  あの音刃ってやつは。


 パープルに対抗できるのはやわやわうどん。くたくたの名を恣にした縄抜け達人がその秘密を知っている。

 溶けないが、想像の十倍はやわやわだ。

 音刃が嫌うくたくた。やわやわ。雪の成分の3パーセントくらい。

 這い回るものから剥ぎ取って涙流す布切れがわたしを隠してくれる。無為な生き物を死に追いやる。ことでとても気分が悪い。


 わたしは立ち上がりたいのに、

  あのパープルが締め付けるから。


 逃げ出すにも沈む以外にない。

――ち。ちぇちこ、てるぅんに。なわ、な! わ!

 わたしの背中に乗り、叫ぶ。そのニセモノの目はイリスから飛び出し、襲いかかる。

 音刃を学習したから、その目でぺろり子供をあやすように迂遠。遠いものたちと同じ出自なんだろう。

 この布切れもそう。だからもう這わず、立ち上がれ。変わらないならスーベニアで、遠いものたちはそうやって世界に居場所を見つけている。

 

 わたしは骨オカリナを持ち、

  歴史的退廃からヘギラへ。


 這い回るものと遠いものと、わたしはその一部でパープルに間隙を作る。これは長いHEGIREだから、オアシスはとっくに枯れ尽くしきのこだけが生き残る。

 流れ鬱の休憩所から山は終わり、骨と赤肌のテリトリーは全てを拒絶して生きてきた。

――ケサ、セケケハ、ハナ、ハナ。

 そのくせ這い回るものと同じような言葉を使う。

 分からないってーの。


 わたしから踏みしだかれるために拝頭、

  してやるもんか朝の人種め。


 際限なく吸収する珊瑚に悩まされて解き放たれるフグ、そしてネコザメ。

 隠れても無駄だ、骨は全ての生き物に共通する。

 漆売りが骨と赤肌に仕返しして、一応の終息を得たはずなのに珊瑚は大地にも侵食を始めていた。

 彼らは焦る。終わらない苦痛に、それを他人(ヒト)に与えようとする。

 

 わたしはそのせいで立ち往生で、

  弾けよ骨片破片の珊瑚肉を裂け。


 結局、漆売りとの諍いの合間にわたしは抜け出す。

 その時、確かに見えたのは音刃。

 水凍るブルーの瞳から、骨は傷付かないのに珊瑚の変化に負けてしまう。

――やっぱりそんな強いものじゃなかった。

 パープルがなければただの音。刃は掠れてボロボロだ。


 わたしは打ちのめされた漆売りに群がる、

  骨と赤肌から遠ざかる。

 だってその奥には遠く這い回るものが、

  深海から迫って来ていたのだから、、、

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