第1因果世界
X-7000世界
その世界には
実際は地球外生命体などではなく自我に目覚めた地球の”神概念術”で生み出された概念生物攻撃の一種である事を知る者はいない。
それはフルエザと言う侵略者……精確には異譚者と呼ばれる存在との戦いが終わった直後の事だった。
その翌日にフルエザと戦闘を行った地域でフルエザと似て非なる”異空間の狭間”を確認された。
そこには木の様な表皮を持ったドラゴンがおり、エグゼキュシオンと言う全長20m前後の機体のパイロット達を襲った。
ポストル、ニコル、タージュ、マリヴィナがこれに応戦したが、エグゼキュシオンの実弾、ブレードによる攻撃は一切通じなかった。
それどころか、原理不明な事に放たれた弾丸はドラゴンに到達前に失速し落下、ブレードで接近しても、まるで無限回廊でも通っているように目標に辿りつけない……と言う彼らにとって未知の事態に遭遇、潜在的に彼らは混乱した。
数分後、近隣の部隊に救援を要請し、事態を重く見た支部は増援を派遣した。
しかし……増援派遣から1時間後……既にポストル、マリヴィナしか残っていなかった。
増援に駆け付けたユノ、アルビーナ、シレディアも未知の敵に違和感を覚えた。
「なに、こいつ!ライフルが効かない!」
「ちょっと、ライフルどころかなんかよく分からないけど、接近もできない侵略者なんて!インチキも大概にしなさいよ!」
「来る!」
ドラゴンは体中から無数の蔓を発射した。
それがエグゼキュシオン達のコックピット目掛けて飛翔する。
「各機!散開!」
臨時指揮権を得たアルビーナが全機に指示を出す。
各機は散開した。
だが、まるで蔓は1つ1つが意志を持っているかのように散開した機体を追尾する。
追尾する蔓は廃墟と化したビルの壁面などに激突するが、激突した蔓の側面から新たな蔓が生え、回避したと思った矢先に側面からの攻撃を受ける。
更に厄介な事に追尾する蔓と四方から生える蔓により回避領域が狭まっていき、それが各機の回避能力を低下させ、徐々に被弾させる。
「なっ!こんな……」
マリヴィナのエグゼキュシオンの左脚が蔓に貫かれる。
それと共に落下運動を取っていたマリヴィナは片足を失ったまま着地……いや、転んだ。
その隙に蔓がコックピットに迫る。
「くそぉぉぉぉぉぉ!!!!」
マリヴィナはライフルをフルオートで乱射した。
だが、蔓は植物のように見えて、まるで硬質なカーボン素材で出来ているように弾丸を弾きながら、コックピットに迫る。
そして、極めて精確に静かにマリヴィナの心臓と脳幹を貫き、断末魔すら上げさせずに息の根を止めた。
「マリヴィナ中尉!応答して下さい!マリヴィナ中尉!」
ポストルが呼び掛けるもマリヴィナは答えなかった。
だが、この敵を相手にポストルの優しさはある意味致命的であった。
一瞬でもマリヴィナに逸れた意識をドラゴンは見逃さず、蔓がポストルに迫る。
ポストルは咄嗟に両腰のブレードを前方でクロスさせて、蔓の直撃を防ぐ。
それと共に一気に振り抜いた。
蔓の軌道が逸れたと同時にブレードは砕け、粉々になる。
ポストルはすぐに柄だけになったブレードを捨てて、ライフルに持ち替える。
「ポストル!」
シレディアが思わず、呼びかけてしまうがポストルは返事をしない。
余裕がなくて返答できないのだ。
そして、次第に攻撃の雨脚がアルビーナに集約されていく。
「こいつ!まさか……あたしを……指揮官を狙っている!」
今までの侵略者は様々な種類があれど、基本的に人間を見つければ、見境なく襲う習性があるだけで高次の知能は持ち合わせていないとされていた。
しかし、このドラゴンは明らかに”戦術”を組んでいた。
ユノやシレディアよりもアルビーナに対して攻撃を傾けていた。
この戦いの中でアルビーナを指揮官と断定するだけの知能を有し、各個撃破が有効であると判断する戦術思考……どれも既存の侵略者にはない特徴を有していた。
「ただの侵略者じゃない!各機撤……」
撤退を指示しようとしたアルビーナをまるでその意を阻止しようとドラゴンは行動を起こした。
「なっ!脚に蔓が!」
ユノが異変を報せる。
ユノの機体の右脚にドラゴンの蔓が絡まっていた。
これにより、ユノは一時的に行動不能となった。
ドラゴンはまるでユノがアルビーナを救援する事を予期したようなタイミングで蔓を絡め、アルビーナを死期を早める。
その瞬間にアルビーナに蔓の大群が押し寄せる。
「このっ!」
アルビーナはライフルを発射するが、蔓は一気に加速し衝撃波を纏いながら弾丸を衝撃波で吹き飛ばしながら、一閃……アルビーナのコックピットを貫いた。
「アルビーナ!」
ユノがアルビーナの名を呼ぶ……だが、刹那だった。
ユノ機に絡まった蔓が変形し右脚の蔓がそのままユノのコックピットを貫いた。
「ユノ!」
シレディアは叫んだ。
流石のシレディアにも動揺が奔った。
今まで戦う事にそれほど恐れなど感じた事はなかった。
自分は戦う為の兵器であり、それ以上でも以下でもなかったのだ。
そして、心のどこかでユノはいなくならないと言う確信に満ちた気持ちを抱いていたが、それがシレディアの心を揺さぶり、心に小さな穴を空けた。
それが僅か、ばかり機体の動きを鈍くした。
そんな隙をドラゴンは逃さない。
今度は蔓がシレディアに殺到する。
正面からの突き、両側面からの鞭のようなスナップを効かせた攻撃がシレディアの逃げ道を塞ぐ。
(えぇ……わたし、死ぬ……)
頭がぐちゃぐちゃでよく分からなかった。
自分でもこの感情について理解が及ばなかった。
それはおおよそ、シレディアが今まで持ち合わせる事がなかった感情だったからだ。
その感情が彼女の動きを緩慢にしてしまった。
「シレディア!!」
途端に視界に見慣れた機体が入ってきた。
かつての自分の愛機だった機体……そして、それに乗る自分の好きな人が彼女の機体を押し退けた。
「ポストルゥゥゥ!」
シレディアは右手を差し伸べるが、その手は届く事はなかった。
ポストルの機体は蔓による突きでコックピットを抉られ、鞭のように迫った蔓により肢体をバラバラにされた。
それを直視したシレディアの心が欠けたような音がした。
胸の苦しさと共に訳も分からず、瞳から涙を零していた。
そして、ドラゴンは生き残ったシレディアを凝視し、鞭を殺到させる。
(あぁ……終わった)
走馬灯でも見るように視界から迫る蔓をゆっくりと眺める。
動きが見えているのに体は全然、動かない。
人工適合者と言う”進化した人類”と言うレッテルを張られた自分は結局のところは無力な人間である事をこの時に悟った。
自分の力は普通の人とは違う……と言う自尊心こそあったが、思い上がりだったと今、気づいた。
(好きな人達を救えもしないこんな力に一体、何の価値があるの?)
そんな皮肉混じりな慚愧の感情が浮かんだ。
だが、最後だと思われた自分の命は寸前で食い止められた。
突如、ドラゴンとシレディアのエグゼキュシオンとの間に眩い光が差し込めた。
「GUA!!!」
ドラゴンの驚嘆に満ちた嘶きが聴こえ、それにより手元が狂ったのか……シレディアに向かっていた蔓の軌道が逸れた。
両脚、両腕、首を蔓で抉られたがコックピットだけは無事であり、頭部と共にコックピットはそのまま地面に落下した。
スーツの耐衝撃機能でなんとか意識を繋ぎ止めたシレディアはコックピットに付いたサブカメラで状況を確認した。
「嘘……」
それはシレディアを絶望させるには十分な光景だった。
そこには2体のドラゴンがいた。
だが、一方は戦闘で負傷したようで満身創痍と言った感じだった。
そのドラゴン達の注意はシレディアではなく廃墟のビルの上に注がれており、ドラゴン達は唸り声を上げていた。
「全く……思わぬ転移だったけど、1つ目の目的地には着けたみたいね」
そこには鎧と刀を持った蒼髪のポニーテールの美しい女性が立っていた。
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