姉妹の再会
リファーナム2匹はアリシアを睨みつける。
アリシアは自らの”真・戦神眼”で相手の量子情報を確認する。
「なるほど……過去のリファーナムと未来のリファーナムか」
どうやら、アリシアがさっきまで戦っていたリファーナムはこの世界の未来から来たリファーナムであり、もう1匹は過去のリファーナムと言う事らしい。
「そうするとこの世界のイレギュラーは……」
アリシアは世界を管理する創造神だ。
並行世界の全てを管理していると言える。
故にその世界にいるだけでその世界の管理番号やその世界の過去や未来の大筋の歴史も分かってしまう。
紅蓮の女王がこの世界を楔の1つとして歴史改変を行ったなら、この世界の歴史は現在、正史と大きく異なっていると言う事だ。
それを元に戻すにはイレギュラーを排除する必要がある。
「あなた達がイレギュラーか……」
アリシアは”来の蒼陽”を構えた。
だが、アリシアに対して並々ならぬ危機感を抱いたリファーナムはすぐに行動に移した。
2体のリファーナムは蔓を一斉にアリシアに向けて発射した。
それもユノ達以上の攻勢をアリシア1人に注いだ。
「危ない!」
コックピット越しにシレディアが思わず、叫んだ。
シレディアから見ても、リファーナム達の怯え方は肌身で分かった。
だが、だからと言ってリファーナム2匹を相手に生身の人間が勝てるはずがないと思った。
だが、そんなシレディアの思惑とは裏腹に……突如、ビルから飛び降りながら、女性は刀を蔓に向かって振った。
「嘘……」
シレディアは絶句した。
無表情で感情を表に出さない彼女だが、これには驚いた。
目の前の女性は事もあろうにライフルすら弾き返した蔓を手持ちの刀で目にも止まらぬ速さで斬り裂いて、蔓を切断して見せたのだ。
女性は淡々とした表情で何の疲労すら抱えていないように斬撃を繰り返し、落下しながらリファーナムに迫る。
だが、シレディアの不安は拭えない。
いくら、目の前の女性が自分の常識が通用しないほどの超人だとしてもあのドラゴンは接近戦すら許さない特殊な力を持っている。
いくら、落下で距離を詰めたとしても無意味であり、このままでは死んでしまうと思った。
だが……そんなシレディアの不安など意を介さないと言わんばかりに女性は空中で斬り刻んだ蔓の破片を右手で鷲掴みにした。
「チェーン・ライトニング!」
すると、女性の右手から稲妻が奔った。
空中に破片として散らばった蔓に側激と被雷を繰り返し、雷撃はリファーナムに飛翔した。
そして、着弾した。
「「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!」」
目の前の光景はシレディアの理解を超えていた。
女性が右手から雷撃を放ったのは勿論の事だが、どんな攻撃も通用しないドラゴンに対して、その雷撃は確かに有効打を与えていたのだ。
まるで何が何だか、シレディアには分からなかった。
ただ、分かったのは……
「凄い……」
そんな月並みの感想だった。
◇◇◇
リファーナムの全身は焼き焦げ、煙が立ち込め、満身創痍となっていた。
必死に呼吸をしようと呻く声が聴こえていた。
「まだ、生きているとは……凄い耐久力ですね」
環境変動が起きない程度には本気を出したが、それでも並みの生物なら既に死んでもおかしくない一撃だ。
アリシアは”神雷鳴術”の類が苦手な方ではあるが、それでもこの一撃を耐えるのは予想外だった。
「でも、次は確実に仕留める」
地面に着地したアリシアはゆっくりとリファーナム達に近づく。
瀕死に追い込んだ事で彼らは”無限位相空間”を維持出来ていない。
今なら接近が可能だ。
だが、直に持ち前の自然治癒で回復するだろう。
そうなる前に”神概念術”の”概念解体”と言う術を行使して、対象を最小単位まで分解する。
アリシアは”来の蒼陽”を血払いするように振った。
リファーナム達は炯々な眼差しでアリシアを見つめる。
アリシアが一歩一歩踏み出す事に彼らは一歩後退る。
彼らの生物としての部分がアリシアと言う存在に畏怖を抱いていた。
絶対に敵対してはならない絶対的な強者の前に彼らも足が竦む。
そして、彼らの本能が咄嗟に選んだ。逃げる……と
「「GAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」」
咆哮と共に空間が一気に歪んだ。
2つの同質のリファーナムが同時に”神時空術”を行使した事で複合魔術として昇華し、通常の転移を凌駕する速度と術式構築で一瞬で転移してどこかに消えてしまった。
アリシアは術の妨害を行ったが、流石に複合魔術化した転移は簡単には妨害できなかった。
「逃がしたか……」
次に出会えば確実に倒す事はできる。
だが、相手は仮にもイレギュラーだ。
本来のこの世界の正史にリファーナムは存在しない。
そこからして、リファーナムの関与により、歴史が大きく変わったはずだ。
例えば、本来……この場で死ぬはずがない人間が死ぬと言った事態などだ。
少なくともアリシアは正史がどんなモノか把握できても、改変された歴史の内容までは把握できない。
なので、あのリファーナムが何をどのようにして歴史を改変したのかまでは分からない。
そもそも、この世界そのものが一種の特異点のようなモノであり、あらゆる干渉を受け難い。
アカシックレコードすら観測できず、どんな改変を行ったのかも把握できず、また、未来視の類も使えないようで把握はできない。
尤も、死んだ人間の魂はこの特異点が存在する限りは天国にも地獄にもいかないようなので、イレギュラーを排除すれば、魂は元に肉体に戻るようになっているようだ。
「色々、謎は多いけど……リファーナムを追わないと始まらないか……まぁ、その前に……」
近くを見るとアリシアが来る前に戦闘を行ったような痕跡があった。
殆どの戦死しているが、唯一、生き残りがいるようだ。
その人物を近くの基地か何かまで送り届けるくらいはしようと思った。
だが、その生き残った魂に……どこか懐古な雰囲気を感じた。
(なんだろう。この感情……わたしはあの魂を知っている……いや、愛おしく思っている)
地獄での戦いが長すぎて、魂をすり減らすような想いをしたせいで偶に何かを忘れてしまう事があった。
だが、その魂を見た時、何か……記憶の奥底から沸き立つような感情があった。
すると、地面に落ちていたコックピットのハッチが開いた。
そこから赤いスーツを着た黒髪のショートヘアの少女が銃口を突き付けてこちらを見つめる。
少女は何も言わない。
どうして、良いか分からないからだ。
だが、そんなアリシアはその姿を見て、思わず涙を流した。
「シティリア……」
忘れていたはずのその名前を思わず口ずさみ泣いていた。
それはアリシアがまだ、人間になる前……天使だった頃の話だ。
妹がいたのだ。アリシアと言う魂はアステリスに創造された魂の中では下から数えた方が早いほどの末っ子だった。
千鶴はアリシアよりも年上の姉のような魂なので、「姉様」と呼んでいるのもある。
そんなアリシアであり、多くの姉とかに可愛がられた事もあったが、そんなアリシアにも可愛がっていた妹がいた。
それがシティリアと言う妹だ。
無表情で無垢な娘だったが、自分には懐いてくれていつも一緒にいた気がする。
ただ、アステリスに反逆した時にアリシアの後を着いて行く形でシティリアも反逆者となり地球に追放されたと覚えている。
色んな感情が混ざり合った。
嬉しいような申し訳ないような慚愧に念があるような自分でも整理しきれない感情に囚われて泣いた。
それを見た、少女は困惑した顔をしていたが、アリシアは既に動いていた。
「シティリア!!!」
銃が撃つよりも早く、シレディアの間合いに入り、彼女を強く抱擁した。
「良かった……良かった……また、会えた!もう、離さないからね」
アリシアは涙を一杯浮かべてシレディアを抱擁した。
シレディアは何が何だか分からず、アリシアの胸に顔を埋めて苦しい思いをしていたが……でも、初めて体感する、凄く暖かく自分を包んでくれる感覚に為されるまま「うん」と答え、銃を下ろした。
シレディアには何故、この女性が自分の為にこんなに泣いているのか、全く理解できなかったが、自分に為に泣いて喜んでくれている事だけは理解でき、こんな感情を真正面から向けられた事がなかったので困惑した。
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