第3話 オオカミのモリ

ヒノクニのほぼ中心付近に、オオカミの森と呼ばれる広大な森林があり、様々な生き物が暮らしていた。


森は、オオカミと呼ばれる四足歩行の生き物が主として君臨していた。オオカミは、ヒノクニのどこかに存在しているとされる「リュウ」を守る役割があり、リュウノモリとしてヒトと同じ姿になりヒトが使う「ことば」を使うことができた。


他のオオカミとは異なる色の毛と異なる色の瞳を持つオオカミが何頭かおり、森を闊歩している。


そのオオカミたちは、森の守護神たるリュウノモリの代表として、他の生き物たちからおそれられていた。


その中に、一際白い毛並みを持ち、翡翠色の瞳を持つオオカミがいる。


彼のオオカミは、ことばを話す他のオオカミから「リュウノスケ」と呼ばれていた。


彼は、ある大木の前でひとしきり地面の匂いを嗅いでいる。


そのとき、すぐそばで遠吠えが響き渡る。


「リュウノスケ、向かったぞ!」


大木の周辺に生い茂っている陰から、白い体に赤い目をしたうさぎが飛び出してきた。


リュウノスケと呼ばれたオオカミは、いつの間にか姿が見えない。


うさぎは、少し首を傾げてその場を離れようとした刹那、木の葉が少し揺れ、うさぎの姿がかき消えた。


口から白い毛並みを咥えたリュウノスケがそこにいた。


リュウノスケは、踵を返すとひとっ飛びでその場から姿を消した。


その様子を木立の陰から伺う視線が2つ光っていたが、やがて光は奥へ引っ込んでしまった。


リュウノスケの姿を追うと、森林の中央に向かって走っているようだ。


やがて木々が途切れ、陽のあたるひらけた場所に飛び出した。すると、深紅の瞳を持つやや赤みを帯びた白い毛並みのオオカミがリュウノスケに声をかけた。


???「よくやったな!リュウノスケ」


リュウノスケ「…、モゴモゴモゴモゴ」


???「…、とりあえず咥えてるものおいたらどうだ?すげえアホヅラだぞ」


先ほど、リュウノスケに話しかけた声のようだ。


リュウノスケ「ペッ、師匠、アホヅラは余計だ」


師匠と呼ばれたオオカミは、笑いながら踵を返し、ふたたびうさぎをくわえたリュウノスケを先導しはじめた。


いつのまにか、彼らの回りには様々な瞳の色をもった、白い毛並みのオオカミが集まりはじめ、ゆるやかに同じ方向へ向かって歩みはじめた。


中には、2頭がかりで大きな獲物を運ぶ姿もある。


やがていくつか大きな洞がある岩肌にたどりついた。


中から、一際体格が大きく、片目が鮮やかな翡翠色、もう片方が黄金色の瞳を持つオオカミが現れた。


オオカミ達は、そのオオカミの前に順に運んできた獲物を積み上げていく。


最後に、リュウノスケがピョンと跳び上がり頂上に白いうさぎを置いた。


???「皆、ご苦労であった。リュウノスケ、はじめての狩りはどうだったか?」


リュウノスケ「…、白ウサギ一匹しか取れませんでした。不甲斐なく思います。次は大鹿を仕留めて参ります、父上。」


父上「そんなに気張らずともよいぞ、獲物を探し、気付かれずに近づき、獲物の大きな損傷なく仕留められておるではないか。十分よ、とりあえず休め」


そういうと、父上と呼ばれたオオカミは他のオオカミに鳴き声を向けた。すると、洞からオオカミがでできて積まれた獲物を奥へ少しずつ運びはじめ、先ほどまで集まっていた、オオカミは、一斉に散らばってどこかへ駆けだしていった。


やがて、リュウノスケは父を一瞥すると踵を返し、洞の1つへ駆け込んだ。


???「あら、お兄様おかえりなさいな」


洞の奥から、声がする。


……つづく

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