ミステリの書き方⑩

 とうとう十本目である。本当に大概にせんといかん。でもこういう大ネタづくりは本数をこさえてナンボである。分からん。狙いすました一撃タイプの方もおられるだろうし、そっちの方がカッコイイから困る。まぁ私は本数で対抗するしかない。


 意外というか新奇性を狙うなら、こういうのはどうか。

 国立赤傘あかがさ高校二年の教室、3時限目が終わろうかというとき、ひとりの女子生徒が手を挙げた。

「先生、次、移動教室なので先に出ますね」

 金髪オールバックにサングラスの物理教師が静かに頷いた。

 女生徒は続けて言う。

「あと紺野さんも連れて行っていいですか? 転入生で初めての移動教室なんです」

 金髪教師が再び頷き、名を呼ばれた紺野は訝しげに自分を指差し、女子生徒に笑顔を向けられた。

 女子生徒は教室を出てすぐ、紺野に笑顔を振り向けて言った。

「私カプール。カプちゃんって呼んで。よろしくね、こんちゃん」

「こ、コンちゃん?」紺野は自分を指差し、困惑する。「あ、あの、カプール? さん、なんで私も――」

「カプちゃん」カプールは頬を膨らませた。「アニメじゃないんだから」

 絶句である。紺野はカプちゃん、と言い直してから尋ねた。

「なんで私も一緒に?」

「ああ、ウチ移動教室が大変だからさ。普通は入学時のオリエンテーションで勉強するんだけど、紺ちゃん来たばっかりで分かんないでしょ?」

「移動教室が、大変?」

「そそ。それじゃまず、鷲のメダル回収しよ」

「鷲のメダル」

「そ。ほら、二階行こう」

 言って連れられたのは、二階にある銅像の間だ。廊下の途中に不自然に現れる謎の空間で、中央に薄気味悪い鷲の銅像があり、その像を覗き込むように左右に男性の首像が置かれている。

「それじゃ紺ちゃんはそっちお願い」

 言って、カプールは鷲の像の右隣の像に手をかけた。

「え? お願いって」

「入れ替えるの」

 カプールが像を押すと、ゴゴ、重い音を立てて像が滑った。

「え!? 何してるの!? カプちゃん!?」

「分かる分かる。私も最初なった。とりあえず言う通りにして」

 紺野は訳もわからないままカプールの指示に従い、左の像を押した。音の割に意外と軽い。二人してそれぞれ像を動かし、鷲の像に背を向けるよう配置し直すと、像の台座がバクん、と開いた。中には……。

「……空?」

「え? あー! ほんとだ!」カプールは眉を吊り上げた。「きっと三年生だー。戻し忘れだよ。しょうがないなぁ……予備の鷲のメダル取りに行こうか」

「予備の鷲のメダル」

「そそ。したら中庭で六角クランクを取って、水を抜いて」

「水」

「そうしたらカードキーが手に入るから」

 そんな話をしていると、件の中庭から悲鳴が。


 ……コメディである。そしてミステリ……ミステリ? 設定のおかげで本格ミステリにできそうな気がするが、仕掛けをいくつも思いつかないといけないのかキツいような気がする。

 

 もうひとつ意外性といえば、学園だからって生徒が主役でなくたっていいのではなかろうか。時は2月の中学校。卒業文集のチェックをしていた教師の春日部かすかべはある生徒の作文に眉を寄せる。

貝割かいわれ大子だいこの不貞と姦通を断罪する』

 作者の名前はない。貝割大子は担当クラスの女子生徒だが、不貞と姦通とはどういうことなのか。名前がなくとも、すでに全員分を回収しているのだから、名簿と照らし合わせれば誰が書いたか分かるはずだ。

 春日部は提出済みの作文と名簿と照らし、はま大子だいこの作文がないと気づく。翌日、確認を取ると、浜は知らないと言う。自分はちゃんと提出した――。

 

 告発文を提出したのは誰か。なぜ浜の作文と入れ替えたのか。そして、なぜ貝割を糾弾しているのか。春日部の調査が始まる――。


 なくは、ない、か? 

 いい加減にどれかひとつ採用して書き始めるべきだろうか。

 いやでもなぁ、うーん。

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