「認める勇気」




 暖かくて、どこか懐かしい匂いのする木漏れ日を浴びながら、くわーっと欠伸を一つ噛み締める。



 人生の中でも最高記録を更新するくらいにはたくさん寝てきたはずなのに、それでもまだ眠い。



 まるで今まで起きた出来事全部が夢のようで、そこから醒めたみたいな……。




 まあ、夢じゃないんだけど。




 二つ目の欠伸を堪えながら隣を過ぎ行く少年少女らに目を配る。


 月曜日の今日は当然学校があって、同じ目的地を目指すであろう彼ら彼女らと同じ道を進む自分は間違いなく遅刻が確定している。



 寝坊して遅刻を悟ったから開き直ったのか、偶然にも今日がそういう気分だったのか、いずれにしろ急ごうとは思わない。


 

 目指す場所が決まっていて遅かれ早かれ歩みを進めてるわけだから、みんな同じなんだよ。

 




 土曜日の夜、竹先生から電話をもらったことを思い出す。

 

 保健室のときみたく腹を割った本気の長話になるかと思いきや、実際にはこれからの対応について軽く話を聞いたのと、自分の行いに釘を刺されたことぐらい。



「二度と舐めたマネ出来んよう細胞全部に染み込ましたる。オレ見たら脊髄反射でビクつくぐらい徹底的に調教したるわ」



 とかなんとか一頻ひとしきりり恐い発言を聞いたあと。



「それとな、春宮先生も頭冷やしや? 村上の暴力行為は大問題やけど、村上殴った春宮先生も大問題や。世間体考えたらどっちが不味いか言わんでもわかるやろ、自分のやったことよう考えとき……。まぁ、村上投げたオレも偉そうに言われへんけど」





 至極真っ当に叱られた。



 本当に、自分のやらかしたことを考えたら頭を冷やすべきだと思う。

 


 村上達はやっちゃいけないことをしたけど、俺も俺でやっちゃいけないことをした。


 

 正直言って後悔はしていない。


 今もう一度あの場面が再現されるとして、もう一度村上を殴る自信がある。


 それぐらいには村上に対する怒りは消えていないし、あの発言を許すことは一生出来ないと思う。




 ただ、それでもしてはいけないことをした。


 自分の行いに関しては、心の底から反省しよう。




 そこだけは本当に。






 風が心地いい。


 空気の匂いでどこか感傷的な気持ちにさせられる。



 これが一つの作品なら、このタイミングでエンディングが流れ始めたりするのだろうか。


 

 自分の物語だから大した曲は掛からなそうだけど……区切りとして、ここなんじゃないかって思う。





 校門が見える。


 おはようございますと挨拶が聞こえる。



 一歩一歩、でも確かに近づいて……。


 中に入れば、新しくが始まる。




 

 どんな顔で授業をしよう。



 どうやって睨みを利かそう。



 助けを呼んでくれた相良に、なんてお礼を言おう。



 橘先生と相沢先生、同僚達とどうやって関係を築いていこう。


 



 

 次薬師寺に会ったとき、どんな言葉を掛けよう。

 





 

 





















「は……は、春宮先生っ」







 うおっ。



 え……、薬師寺?





「う……っ………んっ!」



「は……? えっ、薬師寺……? ちょっと、なに貼ってんの……待ってって!」

 







 いきなり現れた薬師寺に、なにかを貼り付けられた。


 なにかを貼り付けられて、もうダッシュで逃げられた。




 紙……?























 ぁ。












『学校やめないでください。こんど職員室におしゃべりに行きます。』


                   ~fin~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ここからは、青春のターン。 @avanty

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ