第9話 亡骸

グシャ。


セミの亡骸を踏んだ。

間悪だ靴が汚れてしまった。


男。来栖。


何でも屋。

ただし見積もる金額は相当。


人殺し。


暗殺。


獲物は逃さない主義。


生に最も執着する。


今日の月は満月、こんな夜は限って血の温かさが欲しくなる。


「我求」』(依頼)


『可以』(了解)


携帯に送られてきた写真。男四人。


チャイニーズマフィアの九龍組支部。どれも幹部連だ。


銃を磨く。


黒いジャケットを羽織り、夜の街へと飛び立つ。



パアン、電気を撃つ。

暗闇に慣れ親しんだ瞳。


バズ


バズ


サイレントピストルで頭を狙う。


今日も順調だ。


腕時計けに仕込んだライト。照らし出された死体。ってもう亡骸だ。

余分なヤツまで撃っていた。


まあいいか。燃えてしまえば顔の区別さえ分からないだろう。


ガソリンが入ったブラックニッカの小瓶。

投げて床に落ちる前に銃弾で打ち抜いた。


タバコに火をつけ、一服。


一口だけ吸ってガソリンに濡れた床に指ではじく。


燃え盛る事務所。


『完了』


メールを送信し、軽やかに歩き出す。


「今日も俺は生きている。」



セミの亡骸を踏んだ靴は捨てた。

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