第8話 空を割る
遠くに飛びたい。空高く舞い上がりたい。
飛行機が飛んでいる。白い飛行機。雲を抜け、青空を割る。
名は霙。男。国籍は分からない。
ただ、幼少期に台湾で暮らしていた記憶がある。
日本語は分かる。中国語もわかる。
それも謎だ。
「お前は俺の代わりに生きるんだ。」
頬を撫でる血まみれの手。
「・・・・。」
多分、俺を日本に連れてきた男。
名前すらなかった俺に「みぞれ」と名を与えられた。
「俺の名は霙。」
闇に巣くう。
両手にはいつの間にか血にまみれていた。
洗っても、洗っても真っ赤な鮮血が落ちない。
幻覚か、分からない。両手が赤に染まっている。
「俺の代わりに生きるんだ。」
その約束はどうやら叶わないらしい。
腹に二発の銃弾。貫通している。
「・・・・。」
あんたの復讐劇はもう、終わった。
誰もあんたを責めはしない。気高く、誰よりも強く、それで怖がりで弱かった。
「あの頃に帰ろう。」
飛行機が飛ぶ。
滑走路。腹を抑え金網にしがみつく。
立ち入り禁止。と書かれてる。
ズルズルと膝が崩れる。金網にもたれ、晴天を扇いだ。
あの場所に一番近くで、一番、早く。
ポケットから取り出したタバコ。一本だけ残ってた。
震える手で火をつけ煙を吐く。
今度は俺が連れて行こう。
この飛行機のように。
空を飛び雲を抜けよう。
ポタ、涙が零れた。
指先から吸いかけのタバコが落ちる。
霙は金網にもたれ、青空を見上げたまま息をするのをやめた。
「帰ろう。」
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