✿第127話 幸福な朝
二〇一八年、四月の二日。ああいった行為にはもう慣れていたはずなのに、目覚めると体が重かった。
好きな女の子相手ってことで張り切りすぎたのか。桜子ちゃんのフラッシュバックを気にして、神経を尖らせていたのか。この幸福なだるさが彼女にバレることはないだろうけれども、なんだかちょっと恥ずかしい。
すやすやと眠る彼女の顔は穏やかで、特に問題が起きなくて良かったと心から思う。彼女の頭を撫でて、つむじにキスをして、眉間や鼻や耳にまで、何度も軽いキスをした。彼女のことが愛おしくて愛おしくて仕方がない。
ぱち、と目を開けた彼女が、ゆっくりとゆっくりと俺を見る。ふにゃりとマシュマロみたいに笑って、舌足らずな音で呟いた。
「かおるくん。おはよー」
「おはよう、桜子ちゃん」
彼女の体を気遣う言葉をすぐに言うべきだったのに、彼女の可愛さに呆けてしまって、俺は数秒間そのことを忘れた。
「体は、どう?」
と慌てて聞くも、これじゃ俺が嬉しくて舞い上がっていることが丸出しだ。好きな子との、はじめて。朝チュン。すずめ鳴いてないけど。……はじめての、朝チュン。
「うーん……重いし、だるい。ちょっと痛いし、動きたくない。でも……幸せ、だなぁ」
そう言って、彼女は一滴の涙をこぼす。幸せ、か。彼女もそう感じられたなら何よりだ。俺は彼女の頬を撫でて、伝った涙を親指の腹で拭う。
「俺も、幸せ。朝ごはん、どうしよっか。なんか冷凍あったっけ?」
「作り置きのおかずもあるし、買った冷凍食品もあるよ。どうにかなるなる。……もうちょっとだけ、このままでいていい?」
「うん、いいよ」
抱きしめあって、しばらくふたりでぼんやりとする。
四月一日の彼女はずっと生きていてくれて、こうして二日も迎えられた。本当に、生きている。死ぬはずだった桜子ちゃんが生きている。彼女のことが、尊くて眩しくて素晴らしい。
「桜子ちゃんのこと、一生幸せにしてみせる。ずっとずっと……一緒にいるよ」
「うん、ありがとう。……私もね、私と一緒になって良かったって薫くんに思ってもらえるように、頑張るよ」
――幸福だった、この日は。彼女を抱いて、初めて迎えた朝は、幸せなものだった。
幸せはずっと続くものではないとわかっていたのに、このままでいたいと、叶わない欲に溺れた。
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